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恋愛体験談

マッチングアプリで会った人と、3年後に結婚した

清澄白河のコーヒー屋から始まった話。特別なことは何もなかった。ただ、ちゃんと選んで、ちゃんと会って、ちゃんと好きになった。それだけのことが、3年後に結婚になった。

·橘みあ·6分で読める

「どこで出会ったの?」


聞かれるたびに、彼は一瞬だけ間を置く。0.5秒くらい。その空白を、私はもう埋め方を知っている。


「アプリです」


彼の代わりに、私が答える。


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3年と4ヶ月前の秋、withでマッチングした。


10月の終わりで、外はもうコートが要るくらい冷えていたと思う。深夜にベッドの中でスクロールしていて、プロフィール写真の彼が「なんか、まあ、いいか」くらいの温度でよかった。好みど真ん中ではない。でも嫌いじゃない。その曖昧さが、かえって気楽だった。


最初のメッセージが来たのは翌朝だった。


「好きなコーヒー屋さんはどこですか」


変な質問だと思った。「趣味は?」でも「どんな仕事してるんですか?」でもなく、コーヒー屋。でも、好きなコーヒー屋が実際にあったから答えた。清澄白河の、古い倉庫を改装したところ。ブルーボトルじゃなくて、もっと小さい、名前を覚えてもらえないくらいのお店。


「清澄白河なら知ってます。行きましょう」


そのまま待ち合わせ場所が決まった。デートの誘いとも確認ともつかない流れで、気づいたら会う約束をしていた。


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11月の土曜日の午後。


清澄白河の駅を出て、川沿いの道を歩きながら、私はずっと靴の音を聞いていた。緊張というより、測っていた。この人のテンポを。話すスピードを。笑うタイミングを。


彼はコーヒーの話をよく知っていて、でも知識を披露する感じではなかった。「これ、なんか酸っぱいですね」って、ちょっと困った顔をしたのがおかしくて、私が笑ったら彼も笑った。その2秒が、なんとなく転換点だったような気がする。


2時間後、店を出たところで、彼が「次、どこか行きますか」と言った。


次。もう次の話をしている。


胸のあたりが、ふわっとした。好き、というより、もう少し会ってみたい、に近い感覚。でもそれで十分だった。


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特別なことは、何もなかった。


3回目に手を繋いだ。渋谷の、人混みの中で。彼が自然に手を取ったから、私も自然に握り返した。ドラマみたいな瞬間はなかった。ただ、温かかった。


5回目のデートで告白された。代官山のイタリアンで、食事が終わったあと。「好きです」って、ちゃんと言葉にしてくれた。私も「私も」って言った。それだけだった。


付き合って1年で、お互いの実家に行った。2年目に同棲を始めた。3年目の春に入籍した。


振り返ると、ステップを踏んできたみたいに見える。でもそのときそのときは、次に何があるかなんて考えていなかった。ただ一緒にいることが、なんとなく当たり前になっていっただけで。


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ひとつだけ、ずっと引っかかっていたことがある。


「アプリで出会ったって、言いにくいんだよな」


彼はたまにそう言った。「なんか恥ずかしい」「みんなどう思うんだろう」って。深刻な悩みではなくて、ぽろっとこぼれる感じで。


私は正直、ピンとこなかった。


職場でも、合コンでも、アプリでも、その後の関係の中身は変わらない。むしろ条件を絞って探せる分、アプリのほうが誠実だとすら思っていた。「結婚を考えている」「子どもが欲しい」、そういうことを最初から言える場所。他のどこで、見ず知らずの相手にそんな話ができる?


でも彼の感覚も、嘘ではないとわかっていた。「出会いはドラマチックであるべき」みたいな空気は、確かにどこかにある。アプリと言ったときの、相手のほんの少しの間。あの間が、彼を縮こまらせていたんだと思う。


転機は、友人の結婚報告のときだった。


何人かで集まって、「どこで出会ったの?」という話の流れになって、私が先に口を開いた。


「アプリ!withで」


彼が、ちょっと驚いた顔をした。言えちゃったの?という顔。


「言えちゃうよ。恥ずかしくないもん」


私はそう言って、コップのビールを飲んだ。友人たちは「へえ〜」って言って、それ以上でも以下でもなかった。世界は何も変わらなかった。


その夜の帰り道、彼が「ありがとう」って言った。何が、とは聞かなかった。わかっていたから。


それ以来、彼も普通に言えるようになった。「アプリで出会って」って、自分から。


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3年前の私に「アプリで会った人と結婚するよ」と言ったら、驚くと思う。でも「信じられない」とは思わないはずだ。


だって私は、ちゃんと選んだ。プロフィールを読んで、メッセージのやりとりをして、実際に会って、また会って、手を繋いで、好きになった。


偶然じゃない。運命でもない。


意志、だったと思う。


清澄白河の川沿いを、靴の音を聞きながら歩いたあの午後。あのとき私は、ちゃんとこの人を見ていた。スクリーンの向こうじゃなくて、目の前の人を。それが全部だった。


出会いの場所より、その人と何を積み重ねたかの方が、ずっとずっと、大事だ。


そしてたぶん、「ちゃんと選ぶ」ことは、どんな場所でも、できる。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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