「Pairsで出会いました」と友人が言った夜、私はプロフィールを書き直した
披露宴のスピーチで、新婦が「アプリで出会いました」と言った。その言葉が、何かを変えた。
友人の結婚式は、10月の土曜日だった。
会場は目黒雅叙園。ずっしりとした石造りの廊下を歩いて、披露宴会場に入ると、テーブルには白い花と金色のキャンドルが並んでいた。新婦の美咲は、ウェディングドレスで泣いていた。マスカラが少し滲んでいて、それがかえって美しかった。アイドルみたいにきれいに泣く人ってほんとにいるんだな、と思いながら、私はシャンパンを飲んでいた。
披露宴が半分ほど進んだところで、新婦からスピーチがあった。
「彼とはPairsで出会いました」
会場がわっと笑った。笑いの中に、微笑みもあった。新婦は続けた。「最初は周りに言うのが恥ずかしかったんです。でもこうして今日ここに立てて、出会った方法なんて関係ないってわかりました」。
拍手が起きた。私も拍手した。でも手のひらを叩きながら、胸の中で何かがざわついた。
ざわつきの正体が何か、乾杯のシャンパンを飲みながら考えていた。
---
私はPairsに登録してから、もう1年が経っていた。
マッチングはした。デートもした。でも続かなかった。「なんか違う」が積み重なって、疲れてやめる、また始める、をもう何度繰り返したかわからない。
美咲と同じテーブルになって、ケーキを食べながら話していたとき、「ちゃんとやってる?」と聞かれたことがある。「やってるよ」と答えたけど、ちゃんとやっていたかどうかは、正直怪しい。写真は2年前のもの。プロフィールは最初に書いたまま更新していない。メッセージへの返信も、乗り気じゃないと後回しにしていた。
そういえば美咲は、「プロフィールを5回書き直した」と言っていた。「自分がどんな人かを正直に書いたら、急にいい人と出会えるようになった」と。スピーチでその話を思い出していた。
帰り道の電車で、美咲のドレス姿と、「出会った方法なんて関係ない」という言葉が頭に残っていた。
---
結婚式の帰り道、電車の中でスマホを開いた。
Pairsのアプリ。自分のプロフィールを見る。写真は確かに古い。2年前の夏、沖縄旅行で撮ったもの。今より髪が長い。自己紹介文は「読書と映画が好きです。週末はカフェでのんびり過ごすのが好きです。穏やかな人と一緒にいたいです」と書いてある。
読んでいて、「この人と会いたい」と思わなかった。自分のプロフィールなのに。
当たり障りがない、を通り越して、誰でもよさそうだ、という感じになっていた。私じゃなくてもいい文章。誰かが書いたテンプレートのような自己紹介。
アパートに帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、それでもまだ引っかかっていた。深夜1時、布団の上でスマホを開いて、プロフィール編集画面を開いた。
---
写真を変えることにした。先月、中目黒を散歩したときに友人が撮ってくれた一枚。川沿いで笑っているやつ。光の加減が良くて、自分でも「あ、いい写真」と思えたやつ。これにした。
自己紹介文を全部消した。
それから30分かけて書き直した。
「朝は絶対コーヒー、夜はたまにビールが飲みたくなります。映画は邦画も洋画も、最近は深田晃司にはまっています。一人でいるのも好きだけど、誰かと同じ時間を過ごすことの豊かさを、最近やっと知りました。笑えて、黙れる人と会いたいです」。
送信した。0時49分。
書き終えて気づいた。これなら、私に会いたいと思える。
---
プロフィールを変えた翌週から、メッセージの質が変わった。気がした。「深田晃司、好きなんですね」から始まる会話は、最初から続いた。「笑えて黙れるって、どういうことですか」と聞いてくる人がいて、「うまく説明できないんですが、一緒にいて全部喋り続けなくていい関係かな」と答えたら「わかります」と返ってきた。
その人と2時間くらいメッセージして、「会いましょうか」という流れになった。
3ヶ月後、その人と初めて会った。
代官山の小さなカフェ。午後3時の日差しが斜めに入ってきて、彼のコーヒーカップに光が当たっていた。2時間半話して、「また来ますか」と彼が言った。「来ます」と私は答えた。
---
プロフィールを書き直したのは、美咲のスピーチを聞いた夜だった。
「ちゃんとやる」とは何か、あの夜初めてわかった気がする。相手に合わせるんじゃなく、自分が自分であることを書く。それだけだった。
出会い方よりも、どんな自分として出会うか。それが全部だった。
美咲から後日、「どうだった?」とLINEが来た。「書き直したよ、プロフィール」と答えたら、「やっぱり!わかった」と来た。「なんでわかったの」「スピーチしながら、誰かの顔を見てたから」。
美咲は披露宴の最中、私の顔を見ていたらしい。
ちゃんとやる、と決めた夜のことを、今でも覚えている。
出会い方なんて関係ない。でも、どんな自分で出会うかは、全部だった。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。