恋のアーカイブ
恋愛体験談

「もう恋愛は無理かも」と思っていた頃に出会った人の話

2年で3回の失恋、アプリにも疲れ果てた秋。「最後の一回」のつもりで開いたアプリで出会った人が、1年後には「ちゃんとした理由」になっていた。

·橘みあ·6分で読める

秋の終わりだった。


11月の夜、部屋の空気がじわじわ冷えてくる時間帯に、私はいつものようにスマートフォンを眺めていた。何を見ていたわけでもない。ただ持っていた。画面の光だけが妙に明るくて、目が痛かった。


「もう恋愛、いいかな」と思い始めたのは、いつからだろう。


2年の間に3回、付き合っては終わった。どれも私なりに本気だったし、どれも違う理由で終わった。終わるたびに「次はうまくやれる」と思っていたけど、3回目が終わったとき、その言葉が出てこなかった。ただ天井を見上げて、何も考えられなかった。


マッチングアプリも、もう何ヶ月も使っていた。プロフィールを整えて、写真を選んで、最初のやりとりをして、会って、「あ、違う」と気づいて。その繰り返し。


「違う」が積み重なると、だんだん自分が何を求めているのかもわからなくなってくる。会う前はすこしだけ期待するのに、会うたびに何かが削れていく感じ。コンビニのホットコーナーで肉まんを買ったら思ったより薄味だった、みたいな、小さい失望が続く感じ。


そもそも、私に向いていないのかもしれない。恋愛が、じゃなくて、誰かを好きになることが。


そう思い始めていた。


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その夜、特に理由もなくアプリを開いた。


「最後に一回だけ」と心の中で言い訳した。プロフィールを少し書き直した。どうせ誰も細かく読まない、と思いながらも、妙に丁寧に書いた。書きながら「あとどのくらいやるんだろう、私」と思った。


マッチングした。


最初のメッセージが来た。


読んだとき、少し止まった。


「プロフィール読んで、話してみたくなりました」という書き出しで始まって、どの部分が気になったか、具体的に書いてあった。私が書いた本の話、仕事の話、小さなエピソード。ちゃんと読んだんだ、と思った。


テンプレじゃない。


たったそれだけのことで、手が止まった。すごく久しぶりに、返信を考えた。


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やりとりが続いた。


不思議だった。返すたびに返ってきて、話が広がって、気づいたら夜中の1時になっていた。お互い「もう寝ます」と言って、翌朝また続きから始まった。


SUPER BEAVERの「愛する」が頭の中でずっと流れていた時期がある。理由はわからない。でも今思えば、あの曲みたいな感じだったかもしれない。大げさじゃなく、ただそこにいる、みたいな。


「この人と話していたい」と思えた。


最後の一回だと思っていたのに、続きを見たくなっていた。


自分でも戸惑った。期待するのが怖かった。また「違う」になったとき、もう立ち直れないかもしれないと思っていたから。それでも続きが見たかった。矛盾している。でもそういうものだった。


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会う日、下北沢に向かう電車の中で、ずっと音楽を聴いていた。


井の頭線の窓から景色が流れていくのを見ながら、「なんで来てるんだろう」と思った。疲れているのに。もう終わりにしようとしていたのに。それでも足が動いていた。


11月の下北沢は、夕方になると風が冷たい。


待ち合わせのカフェ、BEAR PONDの近くの小さな店で、彼は先に来ていた。立ち上がって手を振った。それだけで、少し肩の力が抜けた気がした。


コーヒーが来て、最初は当たり障りない話をした。でも途中で、なぜか言ってしまった。


「疲れてたんです、恋愛に」


言った瞬間、しまった、と思った。初対面で言うことじゃない。でも止められなかった。


彼は少し間を置いて、「そうだったんですね」と言った。「でも来てくれてよかったです」と。


責めなかった。引かなかった。ただ、受け取った。


その受け取り方が、なんか、よかった。


「私も、もう最後でいいかなと思ってたので」と続けたら、「そういう状態で来てくれたんですか」と驚かれた。


「はい」


短く答えたら、彼は少し笑った。でも笑い飛ばすんじゃなくて、何か考えるみたいな顔をして。


「じゃあちゃんとした理由を作らないと」


そう言った。


カフェの外で自転車が通り過ぎる音がした。コーヒーカップを両手で包んでいたら、少し温かかった。何かが、じわっとした。


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それから1年が経った。


「ちゃんとした理由」になってくれた、と今なら思う。


あの夜、部屋で天井を見上げていたとき。電車の窓から景色を眺めながら「なんで来てるんだろう」と思っていたとき。疲れ切って、それでも足が動いていたとき。


あのとき諦めていたら、と考えることがある。でも「諦めなくてよかった」という言葉にするのは、なんか違う。そんなに強い意志じゃなかった。ただ「最後に一回だけ」と思っただけで、勇気とか希望とか、そういうものは正直ほとんどなかった。


疲れたまま動いた。それだけだった。


「最後の一回」が、最初の一回になった。


諦めかけたとき来た出会いが一番深く刺さるのは、もう守るものが何もない状態で受け取るからかもしれない。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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