3歳サバを読んだ私が、誕生日ケーキのロウソクで詰んだ夜
Pairsのプロフィールに「25歳」と書いた。本当は28歳。3回目のデートで彼が用意してくれた誕生日ケーキのロウソクが25本だった瞬間、喉の奥に何かがつかえて、私は何も言えなくなった。
「誕生日、来週だよね?」
きっかけと背景
代官山のカフェで向かい合った彼が、アイスラテのストローをくわえたまま言った。心臓が一瞬、止まった気がした。
Pairsに登録したのは半年前。28歳の誕生日を一人で迎えた翌朝だった。コンビニで買った安いスパークリングワインの空き瓶がテーブルに転がっていて、その惨めさに耐えられなくてアプリを入れた。プロフィール写真は去年の夏に湘南で撮ったやつ。日焼けして、髪が風で乱れてて、奇跡的に盛れてた一枚。
年齢の欄に「25」と入力したのは、ほぼ無意識だった。いや、嘘だ。めちゃくちゃ意識してた。25と28じゃ、いいねの数が全然違うってTwitterで見たから。実際、いいねは増えた。1週間で87いいね。マッチングも増えた。罪悪感はあったけど、「会ってから好きになってもらえればいい」って、都合よく考えてた。
ユウキくんとマッチしたのは登録から2週間後。プロフィール写真が中目黒の桜並木で撮ったやつで、ピースとかしてなくて、ただ笑ってるだけの写真。それがよかった。自己紹介文に「週末は代々木公園でランニングしてます。雨の日はNetflixと自炊」と書いてあって、地に足ついてる感じがした。
「一人暮らし歴、もう6年です」
「俺も。自炊する?」
「しますよ。っていうか、しないと死ぬ」
「わかる。俺は死なないけど、貧乏にはなる」
LINEに移ってからも、会話が途切れなかった。仕事終わりに中目黒の川沿いを歩きながら電話して、気づいたら2時間経ってたこともある。彼の声は低くて落ち着いていて、聞いていると鼓膜の奥がじんわりあたたかくなった。
初デートは恵比寿のイタリアン。彼は7分前に来ていて、窓際の席を確保してくれていた。白いシャツの襟元からうっすら鎖骨が見えて、目のやり場に困った。メニューを一緒に悩んで、アヒージョを取り分けて、ワインを2杯飲んだところで「もう一軒行かない?」って聞かれた。胸がどくどくいって、グラスを持つ手がわずかに震えた。
2回目は下北沢の古着屋巡り。3回目は彼の家で映画。キッチンからバターの匂いがして、彼がポップコーンを作ってくれていた。ソファに並んで座って、ブランケットの下で肩が触れた瞬間、体温が一気に上がった。4回目で付き合った。
——ここまで、年齢の話は一度も出なかった。
彼は私を25歳だと思ってる。私は28歳。その3歳の溝が、日に日に深くなっていくのを感じていた。彼の友達に「25歳の彼女」と紹介された時、みぞおちのあたりがぎゅっと重くなった。「若いじゃん!」って言われて笑った自分の顔が、トイレの鏡に映った時、知らない人みたいだった。
転機になった出来事
そして、あの夜が来た。
付き合って2ヶ月目。「来週の金曜、空けといて」と言われた。誕生日のサプライズだって、すぐにわかった。嬉しいはずなのに、手のひらが冷たくなった。その週は毎晩、天井を見つめて考えた。言うべきか。でもどうやって? 「実は28なんだ」って? 何度もLINEの入力画面を開いて、何度も閉じた。
三軒茶屋のビストロ。彼が予約してくれた個室。キャンドルが2本テーブルに置いてあって、壁にはツタが這っていた。コース料理の肉は柔らかくて、赤ワインは渋くて、おいしかった。でも味がよくわからなかった。食後に照明が落ちて、店員さんがケーキを運んできた。ロウソクの灯りが揺れていた。
25本。
「25歳おめでとう!」
彼の笑顔が、ロウソクの光でオレンジ色に染まっていた。私は笑えなかった。喉が締まって、目の奥が熱くなって、ケーキの前でぼろぼろ泣いた。涙がテーブルクロスに落ちて、小さなシミを作った。
「え、どうした? 嬉し泣き?」
「……ごめん」
「え?」
「私、25じゃない。28。来週29になる」
沈黙。ロウソクの蝋が溶けて、クリームの上に垂れた。彼の表情が固まったのが見えた。奥歯を噛み締めているのがわかった。
振り返って思うこと
「……は?」
「ごめん。最初にアプリに登録したとき、サバ読んで、そのまま……ごめん、本当にごめん」
彼は何も言わずに席を立って、トイレに行った。5分くらいだったと思う。体感では30分。溶け続けるロウソクを見ながら、私はナプキンで顔を拭いた。店員さんが遠くからこちらを見ていたけど、近づいてこなかった。あの気遣いがありがたかった。
戻ってきた彼は、椅子に深く座り直して、低い声で言った。
「年齢はまあ、別にいい。28だろうと25だろうと、俺が好きになったのはお前だから。でも、嘘ついてたってことがきつい」
その通りだった。何も言い返せなかった。
その日は無言で帰った。駅のホームで隣に立っていたのに、手を繋がなかった。電車の窓に映る二人の距離が、行きより広かった。LINEも3日間、既読がつかなかった。胃の底が重くて、仕事中もまともに集中できなかった。ランチが喉を通らなくて、おにぎりを半分残した。
4日目の朝、LINEが来た。
「日曜、話そう。恵比寿の最初の店で」
あのイタリアンの、同じ窓際の席。ユウキくんは真剣な顔で言った。「嘘はもうなし。それだけ約束して」。私は何度もうなずいた。手が震えていた。彼がその手を握ってくれた時、指先があたたかくて、涙がまた出た。
あれから8ヶ月。まだ付き合っている。でも時々、彼が黙り込むと「まだあの嘘のこと考えてるのかな」って不安になる。それは多分、私がずっと背負っていくものなんだと思う。
3歳のサバは、読んだ本人が一番重い。
よくある質問
マッチングアプリで年齢をサバ読みしたらバレるものですか?↓
年齢詐称がバレた後に関係を修復する方法はどんなものですか?↓
マッチングアプリのプロフィールで嘘をつくとどうなるんですか?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。