「もうやめよう」と思った夜から3週間後の話
6ヶ月間Pairsを使い続けて、11月の深夜に退会した。疲れたからやめた。それだけのつもりだった。3週間後に起きたことが、予想と全然違った。
11月の火曜日、23時47分。
Pairsのアプリを開いて、閉じて、また開いた。
「退会する」のボタンを6ヶ月間で何十回眺めたかわからない。その夜は、指が止まらなかった。6ヶ月間。会ったのは12人、付き合えたのは0人、消耗した夜の数は数えるのをやめた。
退会した。
23時49分。操作は2分もかからなかった。エアコンの音だけが部屋にあった。
やめた直後のこと
退会ボタンを押したあと、画面に「また会いましょう」と表示された。なんか笑えた。会いましょうって誰と。
思っていたほど後悔はなかった。「やっと」という感覚に近かった。アプリの通知が来なくなった翌朝、スマホを確認する回数が半分以下になっていることに気づいた。それまで1日に何十回と開いていたのが、急になくなった。時間が増えた、というより、何かを消耗しなくなった、という感覚。
冷蔵庫の中身が腐っていた。週に3〜4回は外食かデリバリーで済ませていて、スーパーに行く余裕がなかった。というか、行く気持ちがなかった。アプリを使っていた6ヶ月間、生活のディテールが抜け落ちていたんだと、腐った小松菜を見て気づいた。
土曜日が長かった
退会してから最初に気づいたのは、「土曜日が長い」ということだった。
アプリを使っていた6ヶ月間、休日の午前中はなんとなくスマホを開いていた。返信が来ていないか確認して、新しいいいねを見て、プロフィールを見直して、また閉じる。これを1日に何十回やっていたかわからない。その時間が、全部なくなった。
代わりに吉祥寺のBOOKSHELF CAFEに行って、川上未映子の「夏物語」を2時間読んだ。コーヒーが少し濃くて、隣の席の人が静かに文庫本を読んでいた。帰り道、もみじ台公園の横を歩いたとき、11月の空気が冷たいのに、胸の奥が静かだった。重いものを何個か、どこかに置いてきた感じ。
疲れていたのはアプリじゃなくて、選ばれようとしていた自分の方だったんだと、そのとき初めてわかった気がした。
3週間後
退会から3週間後、職場の先輩に「話しやすそうな人がいる」と言われた。
「アプリじゃないから大丈夫?」と聞いたら「普通に友達の友達だよ」と言われた。笑った。そういう出会い方があることを、6ヶ月間頭から消していた。
会ったのは恵比寿の小さな和食屋、木のカウンター席。
最初の1時間、ほぼ聞き役だった。相手の人が自分の話をするとき、目が合ったり合わなかったりする人で、でもちゃんと私の反応を見ながら話している感じがした。急いでいない人だと思った。「この人、どこかで選ばれようとしていないな」とふと思った。自分がそれをしていたから、わかった。
3ヶ月後に付き合った。
今
Pairsはまだ退会したままでいる。また使うかもしれない。でも今は、使っていない理由が以前と違う。疲れているからじゃなくて、今のところ必要がないから。その差は、けっこう大きいと思っている。
選ばれようとしている間は、自分がどんな人間かを後回しにする。やめて初めて、それに気づいた。6ヶ月間、私はアプリに向かって「私はこういう人間です」をプレゼンし続けていて、プレゼンに疲れていたんだと思う。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。