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本棚を読んだ夜、後悔せずに送った最初のメッセージの話

Pairsのプロフィール写真、背景の本棚に3冊分のタイトルが読めた。最初のメッセージにその3冊を全部入れた。返信が来るまで48分かかった。その沈黙に何が起きていたか、彼が教えてくれたのは3回目のデートだった。

25歳・女性の体験
·橘みあ·5分で読める

正直に言う。本棚を読んで送ったのに、彼が黙った。


意図してるのか、してないのか。どっちでもいい。でも私は必ず読む。棚に並んだ背表紙を。


彼のプロフィール写真は、白い壁を背に本棚を斜めに収めた一枚だった。表情は控えめな笑顔。年齢27歳、IT系のエンジニア、渋谷勤務。自己紹介文は「読書と山が好きです。話しかけてもらえると喜びます」。最後の一文に少し笑った。素直で可愛い。


でも私が釘付けになったのは、本棚の方だった。


スマホで写真を拡大して、背表紙を一冊ずつ読んでいく。村上春樹の『騎士団長殺し』上下巻。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』。ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』。奥田英朗の『イン・ザ・プール』。あと数冊は角度的に読めなかったけど、この4冊だけで十分だった。


「私もこの棚に3冊持ってる」と思った瞬間、指が動いていた。いいね。


最初のメッセージで彼を黙らせた48分


翌朝、マッチ通知。


メッセージをどう書くか、30分考えた。「はじめまして」で始まるメッセージは送りたくない。「プロフィール拝見しました」も違う。そもそも自己紹介より先にやることがある。


「プロフィール写真の本棚、背表紙が読めました。『わたしを離さないで』と『怒りの葡萄』と『騎士団長殺し』。この3冊、私の棚にも全部あります。特に怒りの葡萄は去年2回読みました。はじめまして、25歳の遠藤といいます」


送信。


すぐ既読になった。でも返信が来ない。1分。5分。10分。30分。


失敗したかな、と思い始めた40分目。通知が来た。


「……えっ、本棚読んだんですか? 拡大して?」


「はい。読めましたよ、ちゃんと」


「びっくりした。ていうか怖い(笑) いい意味で」


「怖いって言われたの初めてです(笑)」


「いや本当に。僕、本棚が写り込んでるの気づいてなくて。でも読めるんだ、あんな小さいのが」


「本好きは背表紙を自動検索するので」


「(笑)それ、わかる気がします。僕も本屋で人の持ってる本のタイトル無意識に読みます」


そこから先は自然だった。怒りの葡萄はどこが好きか。翻訳は誰のやつで読んだか。イシグロの作品で他に読んだものはあるか。話題が尽きなかった。LINEのやりとりが30分続いた夜、私はなんか、変にテンションが上がっていた。


1週間後、初デートは神保町にした。彼の提案。古書街を一緒に歩こうという話になった。


待ち合わせは三省堂書店の前。彼は私より少し背が高くて、チェックのシャツにチノパン、ほどよく地味な格好で立っていた。写真で見るより目が大きい。緊張してるのがわかった。耳の先が少し赤かった。


「お会いできて光栄です、本棚探偵さん」


その一言で笑った。声が出た。肩の力が抜けた。


3ヶ月後、彼の棚に1冊増えていた


古書街を2時間歩いた。彼は本の話をするとき、少し早口になる。文庫本を手に取りながら「これ、装丁が好きなんですよね」と言う。私が「ちゃんと中身で選びなよ」と言うと「中身は当然として!」と焦る。可愛い。


岩波文庫の青帯が集まった棚の前で、2人で同時に違う本を手に取った。目が合った。


「かぶらなかったね」


「かぶってたら怖い」


「本当に(笑)」


喫茶店で珈琲を飲みながら、彼が言った。


「最初のメッセージで本棚の話してくれた時、正直、どう返したらいいかわからなかったんです。うれしすぎて」


「返信に48分かかってましたよ」


「数えてたんですか」


「数えてた」


コーヒーカップを両手で持って、窓の外の神保町の古書店の看板を眺めた。首の後ろがじわっと熱かった。珈琲の苦さが喉を下りていって、それと入れ違いに、なんか柔らかいものが胸のあたりに広がっていった。


「48分のあいだ、何してたんですか」


「……どう返すか考えてました。ちゃんとした人だったらどうしようって」


「ちゃんとした人だったら困るんですか」


「困ります。僕、ちゃんとした人に弱いので」


その言葉、心臓の裏側にちゃんと届いた。


3ヶ月後、私は彼の部屋の本棚を実際に見た。写真より本が増えていた。右端に、見覚えのある背表紙。村上春樹の『ノルウェイの森』、私が好きだと言っていた本。新品同然のきれいさだった。


「これ、最近買ったやつ?」


「……いつのまにか増えてました」


彼は目をそらした。耳が赤かった。


本棚は、その人の時間の堆積物だ。読んできたもの、考えてきたこと、誰かに見せたかったもの。だから本棚を読むのは、その人の心の地図を先読みすることに少し似ている。


背表紙を読んだのに、彼がこんなに黙るとは思わなかった。

よくある質問

最初のメッセージに本の情報を入れたら、返信まで何分かかりましたか?
48分かかりました。「彼を黙らせた」というタイトルどおり、予想外の内容に驚いた様子だったと想像できます。
相手のプロフィール自己紹介文で印象に残った一文は何でしたか?
「話しかけてもらえると喜びます」という一文でした。素直で可愛いと感じた、と話者は書いています。27歳のIT系エンジニア、渋谷勤務でした。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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