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恋愛体験談Pairs

地元が同じ人とマッチングして、子どもの頃の話で2時間

Pairsで「静岡市出身」の人とマッチングした。小学校が同じで、学年は3つ違う。知り合いじゃない。なのに、あの廊下の匂いを、二人とも覚えていた。

26歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

深夜1時を過ぎたころ、Pairsのプロフィール画面をスクロールしていた。


東京に来て7年。部屋の窓から見えるのは、高円寺の商店街の看板と、コンビニの蛍光灯だけ。静岡の実家を出たとき、こんなに長く東京にいるつもりはなかった。でも気づいたら7年が過ぎて、地元に帰るのは年に2〜3回になっていた。


出身地の設定を「静岡」にしていたのは、理由があった。たとえば帰省するたびに感じるあの感覚——馴染みの定食屋にシャッターが下りていること、商店街の端に知らないドラッグストアが建っていること——そういう変化を「そうなんだ」以上の言葉で受け取ってくれる人が、東京には少なかった。


その人のプロフィールに「静岡市出身」と書いてあった。


「もしかして○○の近くですか」

送ってから、少し後悔しかけた。唐突すぎるかな、と。でも数分で返信が来た。

「そのまさにです」


小学校が同じだった。学年は3つ違う。面識はゼロ。それでも、同じ校区で育ったというだけで、スマホを持つ手がすこし温かくなった気がした。


話が止まらなかった。


「○○ラーメン知ってます?」「知ってる、高校帰りによく行ってた」「私も。でも店主が変わったって聞きました?」「え、知らなかった」「息子が継いだらしくて」「そこまで知ってるんですか」「地元の友達が通い続けてて」——テキストのやりとりなのに、声が聞こえる気がした。静岡弁の抑揚が、少しだけ。


東京にいながら、静岡のアップデートをしてもらっていた。


LINEに移って、1週間やりとりして、会うことになった。


場所は渋谷、代官山よりの路地にある小さなカフェ。窓際の席。11月の午後、外を歩く人たちがコートの襟を立てはじめていた。


緊張していたかといえば、していた。でも違う種類の緊張だった。好きかどうかとか、どう見られるかとか、そういうことよりも先に、「この人と話したい」という気持ちがあった。それがすこし不思議で、すこし、こわかった。


「あの教室の廊下が——」と話しはじめたとき、彼が「リノリウムですよね」と言った。


体が止まった。


そう、リノリウム。あの独特の、油っぽいような冷たいような匂い。体育館の木の床の、踏むたびに軋む感触。給食の時間に廊下まで漂ってきたカレーとコッペパンの匂い。そういう五感に刷り込まれた記憶を、説明しなくても持っている人が目の前にいる。それがどれだけ——うまく言えないけれど、どれだけ、なんというか。


「なんで東京に来たんですか」と彼が聞いた。

「就職で。あなたは?」

「大学から。もう7年いる」

「地元、たまに帰りますか」

「年に2〜3回。帰るたびに何か変わってて、それが少し」

少し、何なのか、最後まで言わなかった。言えなかったというより、言葉が見つからなかった。

「寂しい、ですよね」と彼が続けた。「でも変わっていく方が、生きてる感じもして」

「それはいい言い方ですね」

「一緒に帰りましょう」


気がついたら、そういう話になっていた。


2ヶ月後の年末、東海道線で静岡に向かった。富士山が車窓の右側に現れたとき、隣に誰かがいることで、見慣れた景色がすこし違う輪郭を持って見えた。「あ、富士山」と言ったら「雪、多いですね今年」と返ってきた。それだけの会話。それだけなのに、なんか、胸のあたりが。


静岡駅のホームに降りた瞬間、冬の空気が肺に入ってきた。


ほんのり塩気が混じった、あの匂い。東京にはない匂い。子どものころ、この匂いを「静岡の匂い」と思ったことなんて一度もなかったのに、7年離れると鼻が覚えていた。「ここの匂い、好きなんです」と言ったら「わかります」と返ってきた。それだけで、十分だった。


街を歩きながら話し続けた。「ここにあのスーパーがあって」「今は違う店ですよ」「知ってる、さびしい」「でもあそこのパン屋はまだある」「本当に?」「ほんとに」。彼が先に歩いて、角を曲がった。


そのパン屋に入ったら、変わらない匂いがした。


シナモンと小麦の、あの匂い。子どものころから何も変わっていない。変わっていないものが、まだここにある。喉の奥がきゅっとして、目の奥が熱くなりかけて、でも泣くほどでもなくて——その中間のどこかで、しばらく立っていた。


彼も少し黙った。


「こういうの、一人で来ると単純に懐かしいだけなんですけど」と彼が言った。「二人で来ると、なんか別の感じがします」


うまく言えなかったけれど、わかった。懐かしさと、切なさと、あとなんだろう、温かさ?でも温かさとも少し違う。過去を一緒に持っているわけじゃないのに、同じ場所で育ったというだけで、こんなに近い気持ちになれる。それが恋なのかどうか、正直まだわからなかった。ただ、隣に立っていてほしいと思った。この街を歩くとき、ずっと。


好きかどうかより先に、この人でよかった、と思った。それが正しい順番なのかはわからない。でもそのとき私の中にあったのは、確かにそれだった。


今ならわかる。「地元が同じ」は、共通点の話じゃない。同じにおいを、同じ温度を、身体のどこかに刷り込んでいる、ということだ。言葉にしなくていい記憶を、隣で持っていてくれる人がいる——それは、他のどんなことでも埋まらない。


育った場所を一緒に歩ける人が、こんなに近くにいた。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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