幼なじみとアプリで再会して、付き合うことになった
マッチングアプリで見た顔に、見覚えがあった。名前を確認して、確信した。20年ぶりに繋がった幼なじみとの話。
深夜1時過ぎ、布団の中でスマホを縦にスクロールしていた。
そういう夜だった。特段落ち込んでいるわけでも、誰かに会いたいわけでもない。ただ、眠れなくて、アプリを開いて、親指を動かしていた。部屋の暖房が効きすぎていて、外は2月の東京らしく、窓の結露が光っていた。
そのとき、止まった。
写真の中の人に、見覚えがあった。うまく言えない感覚。「知っている」というより「知っていた」に近い。記憶の引き出しの奥の方を、誰かがノックしているみたいな。
名前を見た。
確信した。
小学3年から6年まで同じクラスだった、あの人だった。
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「もしかして、〇〇小学校の田中さんですか」
送信してから、少し後悔した。違ったら恥ずかしい。そもそも相手は私のことなんて覚えていないかもしれない。でも1分もしないうちに、「え!?」という返信が来た。
「そうです!あなたは誰ですか!?」
その言い方が、小学生みたいで、思わず笑った。深夜に一人で布団の中で笑った。ちょっと間抜けな感じで。
「名前を見てわかった」と伝えたら、しばらく間があって、「そんな昔のこと覚えてたんですか」と返ってきた。
覚えてたんですか、じゃなくて。「忘れるはずない、同じグループで給食当番してたから」と打ったら、「笑いました」と来た。絵文字なしの「笑いました」が、なんか妙にリアルで、また笑った。
20年ぶり、ということになった。
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会う場所は、渋谷の居酒屋にした。
「SHIBUYA STREAM」の近くの、カジュアルな和食の店。20年ぶりの再会にしては気負いすぎず、でも適当すぎない。そういう場所選びに、変に頭を使いすぎた自分が少し恥ずかしかった。
店に入って、彼の顔を見た瞬間。
胸の中で何かが、すっと落ちた。
あの頃の彼だ、と思った。最初の5分で、そうわかった。笑い方が、同じだった。話すリズムが、記憶の中のそれと重なった。声のトーンとか、目が細くなる角度とか。20年という時間が、どこかにきちんと積み重なっているはずなのに、それでもどこかに面影があった。
乾杯して、最初の話題は小学校のことになった。「あのときの担任、怖かったよね」「遠足、覚えてる?あのとき雨で」「あー! 体育館になったやつ」。笑いが止まらなくて、日本酒を頼んで、それもすぐ空いた。
楽しかった。楽しい、という言葉だけで収まらない何かがあった。
初めて会う感覚と、知っている感覚が、同時にあった。大人になった彼のことは何も知らない。好きな音楽も、どんな仕事をしているかも、付き合ってきた人のことも。でも、小学生のときの彼を、私は知っている。給食当番のとき、牛乳をこぼして焦っていたこととか。そういうものを知っている。
それが、不思議な安心感になった。「素の部分を少しだけ知っている」という感覚。初対面の緊張と、旧知の安堵が、混ざり合っていた。どっちが本当かわからなくて、それがまた、妙に心地よかった。
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3回目に会ったのは、代官山の小さなイタリアン。「OSAJI」のある通りから少し入ったところにある、照明の暗い店だった。赤ワインを飲みながら、なんとなく話が途切れた瞬間があって。
そのとき、言った。
「小学生のとき、少し好きだったかもしれません」
自分でも驚くくらい、すんなり口から出た。「かもしれません」という曖昧さがついたのは、正直すぎるのが怖かったからかもしれない。
「え、そうだったの?」
彼が少し目を丸くした。その顔が、また小学生みたいで。
「今は確実に好きです」
言い切ったら、少しだけ間があって。
「それがメインの告白ですね」と彼が笑った。笑いながら、「私も好きです」と言ってくれた。
ワイングラスを持ったまま、私はしばらく何も言えなかった。嬉しいというより、胸のどこかがじわじわ熱くなるような感じ。目の奥が、少しだけ熱くなった。
それと同時に、ほんの少しだけ、「これでいいのかな」という感覚もあった。再会の高揚感が、本当の気持ちに混ざっていないか。「幼なじみとまた繋がれた」という特別感に、引っ張られていないか。そういう疑念が、一瞬よぎった。
でも、笑い方を見て、思った。知ってる。この笑い方を、私はずっと前から知っている。
それでいい、と思った。
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縁というのが、どこに転がっているかわからない。
2月の深夜、眠れなくてスマホを開かなければ、あのプロフィールを見なければ、「この人知ってる気がする」という直感を流していれば。何も起きなかった。20年がそのまま20年になって、名前すら思い出さなかったかもしれない。
アプリが繋いだ、と言うには少しロマンがなさすぎる気もする。でも実際、そうやって繋がった。テクノロジーが、縁を掘り起こした。
今も、たまに「なんでマッチしたんだろう」と思う。
でも答えより先に、彼の笑い方を思い出す。
知っていた、あの笑い方を。
過去を知っている人と恋をするのは、記憶ごと好きになることだと、今ならわかる。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。