4年ぶりに隣に座った人の声が、私の同窓会の目的を全部塗り替えた
行く気のなかった同窓会で、ゼミの同期と隣になった。4年分の空白を埋めるように話し続けた夜、「また会いましょう」はいつもと違う重さを持っていた。
行きたくなかった。
正直に言うと、前日の夜までずっとそう思っていた。LINEのグループに「参加!」と送った自分を、少し後悔しながら。
同窓会って、なんで毎回あんなに気が重いんだろう。会場に向かう丸の内線の中、スマホを握ったまま出口案内を何度も見た。新宿三丁目で降りて、地下道を歩いて、予約されていた居酒屋の階段を上がるまで、「今日どうせ知っている話しかしないんだよな」という気持ちが抜けなかった。4年ぶりに会う顔ぶれ。近況はほぼSNSで把握済み。なのになぜ集まるのか。
幹事の友人に「久しぶりに会おうよ」と押し切られなければ、たぶん来なかった。
宴会場に入ると、すでに半分くらい席が埋まっていた。名前のプレートを探して、自分の席についたとき、隣にいた。
同じゼミの、彼だった。
「あ、久しぶりですね」
「久しぶり。4年ぶりくらいですか」
声が、少し低くなっていた。それだけ気づいた。卒業式の日を最後に、会っていなかった。インスタグラムでたまに投稿を見ていたけれど、画面越しの近況と、目の前の人間は、別のものだった。
料理が運ばれてきて、乾杯の音頭が上がって、あちこちで声が大きくなっていく。私はグラスを持ったまま、なんとなく隣に向き直った。話のとっかかりを探して、ゼミのことを聞いた。
「あのときのゼミ発表、覚えてます?」
そこから、止まらなかった。
就職してから変わったこと、逆に変わらなかったこと、4年間で会いに行けなかった場所と、行ってしまった場所。同じゼミにいながら当時はちゃんと話したことがなかったのに、今夜はなぜかするすると言葉が出てきた。彼の話し方は、急がない。相槌を打つタイミングが自然で、私が言いかけてやめたことにも、ちゃんと気づいていた。
「それって、結局どうなったんですか」
そう聞かれると、話の続きを探したくなった。
気づいたら、周りの声が遠くなっていた。同窓会に来ていたはずなのに、いつの間にかほぼ二人で話していた。テーブルの向こうでは昔の話で盛り上がっている。私は全然そっちに意識が向かなかった。向けようとしなかった、のかもしれない。
胸のあたりが、じわっとしていた。これが何なのか、その時点ではまだよくわからなかった。ただ、「帰りたくない」とは思っていた。
一次会が終わって、二次会の流れになった。近くのバーに移動して、また隣になった。偶然ではなく、お互いが少しずつそこに向かっていた気がする。バカルディのソーダ割りを飲みながら、今度は仕事の話になった。うまくいかないこと、迷っていること。彼は「それ、わかります」とだけ言って、すぐに解決策を出そうとしなかった。
それが、よかった。
誰かに話すと大抵「こうしたら?」が来る。でも彼は、ただ聞いた。私が話し終わるのを待ってから、自分の話をした。うまくいっていない部分も、隠さなかった。カウンターの間接照明が、彼の横顔を照らしていた。
終電の時間になって、店を出た。
「また会いましょう」
彼が言って、私も言った。
でも、その言葉の重さが、今日は違った。いつもの社交辞令の「また会いましょう」じゃない。それは自分でも感じていたけれど、確かめる勇気はなくて。帰りの電車の中、スマホを開いたり閉じたりしながら、窓に映る自分の顔を見た。
翌週、連絡が来た。
「先週話してた店、近くにあったんですけど、行きませんか」
文字を読んで、息を吸った。短い文章なのに、ちゃんと心臓に届いた。「行きます」と打って、送る前に三回読み返した。それから送った。
二人で食事をした。恵比寿のイタリアンで、予約してくれていた。窓際の席から外が見えて、夜の街がきれいだった。料理より話のほうが多くて、気づいたらデザートの時間になっていた。
「同窓会、来てよかった」
彼が言った。私も、そう思っていた。でもその夜はまだ、それだけだった。
3ヶ月後、付き合い始めた。
「同窓会に行ってよかった」と私が言ったら、「私も」と彼が言った。私も、という言葉に一瞬笑ってしまった。自分のことを「私」と言う人だっけ、と思って。でもそれが、なんかよかった。
今になって思う。あの夜、行きたくなかった私が行って、隣の席に座って、ゼミ発表の話から始めた。その小さな偶然がなければ、今の私たちはいなかった。4年間、SNSで近況だけ追っていた人が、急に解像度を上げて目の前に現れた夜。
「また会いましょう」はずっと挨拶の形をした嘘だったけれど、あの夜だけは本当だった。
行きたくない場所に行ったとき、人生が動くことがある。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。