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恋愛体験談エッセイ

生活リズムが正反対だった夜、後悔しなかった2年間の話

起きる時間と眠る時間がまったく逆のふたりが、2年間一緒にいた。重なれるのは1日たった8時間だけ。下北沢の土曜日と、寝ぼけた声の電話が、すれ違いをじわじわと愛おしさに変えていった生活リズム違いカップルの話。

29歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。生活リズムが正反対だったのに、2年間離れなかった。


カーテンの隙間から光が入ってきて、私はコーヒーを淹れる。豆はいつもカルディで買う深煎り。挽きたての香りが部屋に広がるころ、スマホを見る。彼からのLINEはない。当たり前だ。彼はまだ、眠っていないから。


付き合い始めて最初の1ヶ月で、これは普通じゃないな、と気づいた。


朝7時という壁


彼はフリーランスのWebデザイナーだった。クライアントとのやりとりは深夜、制作も夜中。打ち合わせが昼か夕方に入るから、起きるのが14時前後で、眠るのがだいたい朝の7時前後——そういう生活。「だいたい7時前後に寝ます」と言われたとき、一瞬意味がわからなかった。「朝7時に?」「はい」。私が起きる時間に、彼は眠りにつく。


お互いの生活が重なる時間は、1日8時間だけだった。


彼が起きてくる14時から、私が眠くなる22時まで。その8時間だけ。平日のLINEは夕方に集中した。「今日の昼休みに面白いことがあって」という話を、気持ちが冷めた夕方に改めて立ち上げる。その「面白い」を、もう一度温め直す感覚。じわじわと、疲れていった。


最初は「これ続くのかな」という感覚が、胃のあたりにずっとあった。夜寝る前に「おやすみ」を送りたくても、彼はまだ仕事中だった。朝起きて「おはよう」を送っても、返ってくるのは昼過ぎだった。距離があるわけじゃない。時間が、ずれていた。


吉祥寺の夜に話した


3ヶ月目の夜、吉祥寺のイタリアンで白ワインを飲みながら、やっと話した。


「なんか、生活リズムが違いすぎて……寂しいって思うことが、ある」


言葉にした瞬間、喉の奥が少し熱くなった。言わなくていいかな、と何度も思ったやつだった。


彼はグラスを置いて、こっちを見た。「言ってくれてよかった。気づかなかった、ごめん」


「謝らなくていい。どうするか一緒に考えたかっただけ」


「……じゃあ」と彼は少し間を置いた。「週に一回、私が早起きする日を作ります。土曜日、9時に起きます」


その言葉の重さが、わかった。夜型の人間が9時に起きるのは、私が朝4時に起こされるのと同じくらいしんどいはずだ。それを、あっさりと言った。


翌週の土曜日、9時02分に「起きました」とLINEが来た。


いつもより漢字が少なかった。「大丈夫?」と送ると「ねむいです でもいいです」と返ってきた。その「でもいいです」の4文字が、ずっと胸に引っかかった。好きだった、その不器用な言い切り方が。


邪魔しない関係


土曜日は昼から会うようにした。彼が少し覚醒してくる13時ごろ、下北沢の改札で待ち合わせる。シャツの襟が少し曲がったまま来ることもあった。直してあげると「ありがとうございます」と眠そうな顔で言った。レコード屋を冷やかして、古着屋をのぞいて、夕方に駅前の中華で餃子を食べる。21時ごろに解散する。それが、私たちの週1ルーティンになった。


週をまたいで泊まることも増えた。「土曜の昼から日曜の夜まで」という形で、まとまった時間を作るようにした。私が先に寝る。彼は夜中に起きて仕事する。朝、目が覚めると横で彼がようやく眠っている——そのすれ違いを「一緒に過ごす」ことで、なにかが変わった。邪魔しない、という関係が自然に生まれた。私が眠っている間、彼は集中できる。彼が眠っている朝、私は一人の時間を持てる。お互いの時間を奪わずにいられる。それは、思いがけない心地よさだった。


でも、しんどかった日もある。


10月の雨の日曜日だった。用事が急になくなって、午後2時に部屋で一人でいた。窓を雨が打っていた。「会いたい」が、じわじわと膨らんだ。でも彼はまだ、眠っていた。夕方に起きてくるのを待つしかなかった。スマホを伏せて、また持ち上げて。その数時間が、やたらと長かった。


そのことを後日話したら、彼は少し考えてから言った。「会いたいなら起こしていい」


「……起こしていいの?」


「会いたいんでしょ」


「うん」


「じゃあ起こして」


それだけだった。それ以来、どうしても会いたくなった朝は電話した。3コールくらいで出る。「……なんですか」という、寝ぼけた声。その声を聞くと、胸のどこかがゆるんだ。会えなくても、声があればよかった。そういうことに、少しずつ気づいていった。


2年間、生活リズムの違いで終わったことは一度もない。


今ならわかる。問題は「違うこと」じゃなかった。違うことに対して、どう動くか。それだけだった。「早起きします」と言えた彼と、「寂しい」と言えた私。その2つが噛み合ったから、続いた。どちらかが黙ったままだったら、たぶん3ヶ月目の吉祥寺で終わっていた。


気持ちがある限り、方法は見つかる——なんて、きれいにまとめたくない。


ただ、朝7時に「起きました」と送ってきた人のことを、今でも思い出す。漢字が少なくて、眠そうで、それでもいいと言った人のことを。


今でもあの判断が正しかったかは、わからない。

よくある質問

最終的にふたりはどうなったのですか?
生活時間がまったく逆でも、2年間離れなかったと記事にあります。すれ違いを愛おしさに変えながら関係を続けたようです。
彼の仕事はどんなものだったのですか?
フリーランスのWebデザイナーで、クライアントとのやりとりは深夜、制作も夜中がメインでした。起きるのが14時前後、眠るのが朝7時前後という生活スタイルだったそうです。
1日で重なれた時間はどれくらいだったのですか?
記事によると、ふたりの生活が重なれたのは1日たった8時間だけだったとのこと。その限られた時間に、下北沢の土曜日や寝ぼけた声の電話を積み重ねていたようです。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#ストーリー#生活リズム#工夫

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