Tappleで会った男性と過ごした2時間の沈黙について、正直に話す
話題が尽きた。Wi-Fiも死んでいた。私たちは2時間、恵比寿のカフェで何度も会話を蘇生させようとして、そのたびに失敗した。
最悪のデートというのがある。最悪といっても、相手が怖いとか失礼とか、そういうことじゃない。ただひたすら、話が弾まない。それだけなのに、2時間があそこまで長く感じられるとは思わなかった。
待ち合わせは恵比寿の駅前で、相手は加藤という名前の24歳の男性だった。Tappleのプロフィールには「映画と音楽が好きです」と書いてあった。私も映画が好き。共通点がある。これはいける。そう思っていた。
第一印象は悪くなかった。清潔感があって、背が高くて、軽く会釈してくれた。カフェに入って席についた。
「最近どんな映画観ましたか?」
私が先手を打った。得意分野から入る作戦。
「あー、最近あんまり観れてなくて」
「あ、そうなんですね」
と言って止まった。会話が止まった。
0.5秒の沈黙を埋めようとして、私は「私はこの前、A24の新作観たんですけど」と言った。
「あ、A24って最近よく聞きますね」
「そうなんですよ、あの会社の映画ってなんか独特で——」
「そうですね」
そこで終わった。加藤さんがコーヒーを一口飲んだ。私もカフェラテを一口飲んだ。
(あれ?)
音楽の話に切り替えた。「最近何か聴いてますか」
「米津玄師ですかね、やっぱり」
「いいですよね米津。あの人ってなんか——」
「すごいですよね」
「……すごいですよね」
そこで会話が死んだ。お互いにコーヒーを飲んだ。
(なんだこれ。)
スマホで話題を調べようとした。カフェのWi-Fiに接続しようとした。パスワードを聞いたらレシートに書いてあった。入力したらエラー。もう一回。エラー。3回目でようやく繋がった——と思ったら「このネットワークはインターネットに接続されていません」。Wi-Fiが死んでいた。
(最悪のタイミング。)
データ通信でも調べられたはずだけど、なんかそれをやるのがみっともない気がして、できなかった。いや今思うとやればよかった。
仕事の話をした。加藤さんは不動産会社で働いているらしかった。私は「そうなんですね」と言い続けた。間違いではないけど、深まらない。
出身地の話をした。加藤さんは埼玉で、私は東京で、「東京出身の人っていいですよね」と言われた。「あ、なんでですか?」と聞いたら「なんとなく」と言われた。
そこで会話が死んだ。またコーヒーを飲んだ。
1時間が経った。カップが2回お代わりされた。2杯目が来たとき、「あと1時間あるな」と計算してしまった自分に引いた。
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初デートの待ち合わせに遅刻した。しかも間違えた駅に降りて、汗だくで18分後に到着した私を、彼女は黙って待っていた。その時の第一声が忘れられない。
(あと1時間、どうするんだ私。)
猫の話をした。私が猫を飼っているという話。加藤さんが「かわいいですよね猫って」と言った。私が「写真見ますか?」と言った。加藤さんが「はい」と言った。猫の写真を4枚見せた。加藤さんが「かわいいですね」と言った。「名前は?」と聞かれた。「もちって言うんです」と言った。「かわいい名前ですね」と言われた。
それで猫の話が終わった。
2時間経って、「そろそろ」と加藤さんが言った。人生でこれほど「そろそろ」という言葉に救われたことはなかった。
駅まで歩いた。5分の道のりが生涯最長だった。「今日はありがとうございました」「こちらこそ」「またよければ」「はい」。
改札を抜けて、ホームに下りた瞬間、ため息が出た。思ったより大きかった。近くにいたOLが少し振り向いた。すみません。
電車の中でTappleを開いた。加藤さんのトーク画面を見た。「また」の選択肢は、正直迷った。
送らなかった。これは彼が悪いわけじゃない。私も頑張ったけど、どうしても噛み合わなかった。それだけの話。
合わない人というのは確実に存在する。映画と音楽が好きなのが共通点でも、会話のリズムが全然違えばどうにもならない。それを学んだ2時間だった。
授業料、カフェラテ2杯分。まあ、安い方だ。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。