プロフィール写真と全然違う人が来た。でも声は、想像と同じだった
Tinder のデートで学んだこと。写真と現実の話。それだけじゃない話。
恵比寿のスターバックスで待っていたのは、「声」への期待だった。
Tinderでマッチングした彼——田中さん(仮名)——とは、メッセージよりも長い音声通話を2回していた。声が落ち着いていて、話し方がゆっくりしていて、話の構成が面白かった。「映画の話になると止まらない」と自分で言っていて、実際に止まらなかった。2時間通話したこともある。「三宅唱の映画、好きですか」と聞いたら「あのリズムが体に入ってくる感じ、ありませんか」と返ってきた。わかる、と思った。話の引き出しが多くて、何を話しても深くなった。
会うのを楽しみにしていた。外見がどうとかじゃなくて、この声と話したかった。
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14時に恵比寿スタバの入口で待っていたら、「田中です」と声をかけられた。
顔を見た。
正確に言うと、「え」とはならなかった。「あ、3年前の人だ」という感じだった。プロフィールの写真は今よりずっと細くて、顔もシャープだった。今の彼は、写真の彼より確かに太っていて、あごのラインが変わっていた。年齢も、プロフィールには29歳と書いてあったけど、実際は32、3歳に見えた。
席についてラテを頼んで、普通に話し始めた。声は、通話のときのままだった。落ち着いた低音。話し方もそのまま。「写真、古いやつ使ってたんです。変えるの面倒で」と彼は笑いながら言った。笑い方が少し自嘲気味だった。バレてると思っていたのか、最初から言うつもりだったのかはわからない。
「そうですか」と私は答えた。ここで何かを言うのは、どこか違う気がした。
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話は2時間続いた。
彼が面白かったのは本当だった。映画の話になると止まらない、というのも本当で、最近観た三宅唱の映画について、「あの編集のリズムが体に入ってくる感じ」と言ったのは、私もまったく同じように感じていたから「それです」と言ってしまった。「あのシーン好きですよね、音が切れるやつ」「あそこ!静寂が音になってる」「わかります」。興奮して少し声が上がった。
音楽の話、東京の好きな場所の話、仕事の話。代官山も六本木も恵比寿も、彼の場所の好みは私と近かった。「下北沢はうるさすぎて苦手で」「私も同じです」「恵比寿がちょうどいい」「そうなんですよね」。共通点がいくつもあった。
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気づいたら1駅乗り過ごしていて、彼の肩が温かかった
4回目のデートで飲みすぎた。帰りの中央線で気づいたら彼の肩に乗っかって眠っていた。起こしてくれなかった。1駅過ぎた荻窪で目が覚めた。
会話の内容だけ切り取れば、いいデートだった。テキストや通話のときと同じ質の会話ができた。
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でも帰り道、電車の中で正直に考えた。
「また会いたいか」。
答えはNOだった。理由を自分で掘り下げてみると、写真の問題だった。写真が古いことへの不信感、ではなく、「会う前に正直に言えなかった」ことへの引っかかり。通話で仲良くなっていたのに、「写真が古いかもしれないけど」の一言がなかったこと。会ってすぐに「古いやつ使ってた」と笑いながら言えるなら、会う前に言えたはずだ。
外見が違うことは、大した問題じゃなかった。でも「黙っている」という選択が、小さな嘘みたいに見えた。
その後、LINEが2回来たけど、返信は短くして、自然に終わった。
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友人にその話をしたら「最初に写真見て判断するじゃん」と言われた。でも私が引っかかったのは外見の話じゃなかったから、うまく説明できなかった。
マッチングアプリの写真は、見た目の良さより、「今の自分への正直さ」だと思う。「会ったとき同じ人」の方が、信頼感が全然違う。会う前に「写真が古めかもしれないです」の一言があれば、それだけで印象が変わった。
でも彼の声は、今でも少し残っている。「あのリズムが体に入ってくる感じ」という言い方。こういうことを同じ温度で言える人は、そう多くない。もったいなかった、と今でも思う。
写真を更新することは、正直さの第一歩だ。それだけで、出会いの質が変わる。
さらに2ヶ月後、別の人とデートした。写真に自撮りがなくて、会う前に「写真、最近のものなので」と一言送ってきた。その一言で、会う前から安心した。小さな誠実さが、最初から違った。
プロフィール写真を更新することは、自分を正直に見せることと同じだ。格好よく見せようとすることより、今の自分でいることの方が、ずっと誰かに刺さる。
写真が本物であることは、関係の入口が本物であることだ。そこだけはきちんとしたい、と今は思う。
外見は変わる。声は変わらない。写真は選べるけど、声は選べない。だから私は次に会う人の声が、楽しみになった。
Tinder を開くとき、今でも少しだけ田中さんを思い出す。あのラテの味と、「三宅唱、わかります」という言葉。こういう細部が、人を記憶させる。
声だけで好きになれる人がいる。そういう人とは、いつかちゃんと会いたい。写真を更新した上で。
あのスタバの席で、もう一時間話し続けたかった気がする。でも声が本物でも、最初が本当じゃないと続かない。それだけのことだ。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。