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恋愛体験談エッセイ

転職が決まった夜、一緒に喜んでくれた人がいた。後悔しなかった話

転職活動と同じ週に、マッチングアプリを始めた。3社目の面接に落ちた夜にマッチングして、内定の電話が来た夜、10秒で「よかった」が返ってきた。ぼろぼろの自分を隠さなかった話。

28歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。3社目の面接に落ちた夜にアプリを開いたのに、変わった。


転職活動を始めたのと、マッチングアプリを始めたのが、ほぼ同じ週だった。「暗くなってる場合じゃない」と思ったのか、逃げ場を探していたのか。今でもどっちだったのか、うまく言葉にできない。たぶん、両方。


渋谷のスタバで、面接対策をしていた夜


11月の終わり。渋谷のスタバで、3社目の面接対策をしていた夜のことをよく覚えている。窓の外、ヒカリエのビルが橙色に光っていて、通行人はみんな早足で、誰も私の存在なんて気にしていなかった。ノートパソコンの画面には「志望動機を3分で言えるようにしておくこと」と書いてあって、カフェラテはもう冷めていた。


翌日、3社目の面接が終わった。手応えは、なかった。面接官の「では、結果は追ってご連絡します」の声が妙に事務的で、エレベーターを降りたとき、膝が少し震えていた。


ビルのロビーで立ち止まって、スマホを開いた。マッチングアプリの通知が来ていた。反射的にタップした。逃げるみたいに。


彼だった。


プロフィールに「転職中です」と書いていたのは、自分でも少し迷った末のことだった。書かない方が印象いいのかな、とは思った。でも消せなかった。嘘ついた状態で会いたくなかった。今の自分の、一番でかい文脈を隠したくなかった。


彼からの最初のメッセージは、短かった。


「転職、大変そうですね。うまくいくといいですね」


それだけだった。変なプレッシャーもなかった。「今どんな業界受けてるんですか」みたいな詮索もなかった。「絶対うまくいきますよ!」みたいな根拠のない励ましでもなかった。


ただ、そう言われた。


それだけで、なぜか胸の奥の何かが、少しだけゆるんだ。鼻の奥がつんとした。泣くほどじゃない。でも、誰かに見てもらえた感覚があった。


代官山の夜、転職の話をやめた


最初に会ったのは、12月の初旬。代官山の小さなイタリアンだった。蔦のからまった外壁。店内にはback numberが低く流れていた。


彼は、私の転職の話を聞いた。でも、ずっと聞いているわけでもなかった。途中から、全然関係ない話になった。好きな映画の話とか、実家の犬が最近老けてきたとか、「柴犬ってシニアになると顔が白くなるんですよ」とか。


私は久しぶりに、転職のことを忘れた時間があった。パスタを食べながら笑っていた。声を出して笑ったのが何日ぶりか、わからなくなっていた。


帰り道、代官山の暗い路地を歩きながら「また会いたい」と思った。転職が決まってから、とかじゃなく。今の私のまま、また会いたいと思った。それが少し、意外だった。手のひらが、コートのポケットの中であたたかかった。


「そういう時間、いちばんしんどいですよね」


2回目は年が明けてから。新宿の居酒屋。そのころ、4社目の面接の結果待ちだった。


「どうですか最近」と聞かれて「待ってます」と答えた。


「そういう時間、いちばんしんどいですよね」と彼が言った。


詳しく聞いてくるわけでも、励ますわけでも、アドバイスするわけでもなく、ただそう言った。焼き鳥を箸で持ったまま、私は少し黙った。喉の奥に何かがつかえた感覚があった。


その一言で、背中の力が少し抜けた。「わかってくれている」と感じることの安心感が、こんなに重いとは思わなかった。


内定の電話が来た夜


4社目から内定をもらったのは、1月の末だった。


電話を切った直後、手が震えていた。嬉しさなのか安堵なのか、自分でもわからなかった。


彼にLINEした。最初にLINEしたのが、彼だった。自然とそうなっていた。親より、友人より、先に。


「決まりました」


10秒で返信が来た。


「よかった、おめでとう」


それだけだった。短いメッセージだった。でもその「よかった」の4文字に、3ヶ月分の重さがあった。面接に落ちた夜のことも、代官山で笑った夜のことも、新宿の居酒屋で「しんどいですよね」と言ってくれた夜のことも、全部知っている人の「よかった」だった。


スマホの画面がにじんだ。今度は、泣いた。


その夜、電話した。1時間くらい話した。転職の話は15分で終わって、残りは全然関係ない話だった。実家の犬の話と、最近観た映画の話と、「今度はどこの街に住むんですか」という話。


転職が終わって、始まったもの


新しい職場に入って、2ヶ月が経ったころ、付き合った。


告白というより、確認みたいなものだった。恵比寿のカフェで向かい合って、「そういう感じで、いいですか」という彼の言い方が、正確だと思った。そういう感じ、というのは、今までの2人の感じのこと。お互いわかっていた。ただ、言葉にした。


転職活動中に出会った人と付き合うとは思っていなかった。あの時期の自分は、ぼろぼろだったから。ぼろぼろのまま会って、ぼろぼろのまま好きになった。


その人が今も隣にいる。


しんどいときに隠さなかった自分を、受け止めてくれた人がいた。理由なんていらなかった。


しんどいときに出会った人は、しんどくない自分も知っている。それが一番ありがたいのに、しんどいときにしか出会えない。

よくある質問

転職活動中にマッチングアプリを始めたのはなぜ?
「暗くなってる場合じゃない」という気持ちと、逃げ場を探していた気持ちの両方があったそうです。3社目の面接が不調だった夜に、マッチングアプリの通知をタップしたことがきっかけでした。
プロフィールに「転職中」と書いた理由は?
書かない方が印象がいいと思いつつも、嘘をついた状態で会いたくなかったからです。今の自分の一番大きな状況を隠して出会っても、後で話さなければいけない。最初から正直に書くことを選んだそうです。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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