転職が決まった夜、一緒に喜んでくれた人がいた。後悔しなかった話
転職活動と同じ週に、マッチングアプリを始めた。3社目の面接に落ちた夜にマッチングして、内定の電話が来た夜、10秒で「よかった」が返ってきた。ぼろぼろの自分を隠さなかった話。
正直に言う。3社目の面接に落ちた夜にアプリを開いたのに、変わった。
転職活動を始めたのと、マッチングアプリを始めたのが、ほぼ同じ週だった。「暗くなってる場合じゃない」と思ったのか、逃げ場を探していたのか。今でもどっちだったのか、うまく言葉にできない。たぶん、両方。
渋谷のスタバで、面接対策をしていた夜
11月の終わり。渋谷のスタバで、3社目の面接対策をしていた夜のことをよく覚えている。窓の外、ヒカリエのビルが橙色に光っていて、通行人はみんな早足で、誰も私の存在なんて気にしていなかった。ノートパソコンの画面には「志望動機を3分で言えるようにしておくこと」と書いてあって、カフェラテはもう冷めていた。
翌日、3社目の面接が終わった。手応えは、なかった。面接官の「では、結果は追ってご連絡します」の声が妙に事務的で、エレベーターを降りたとき、膝が少し震えていた。
ビルのロビーで立ち止まって、スマホを開いた。マッチングアプリの通知が来ていた。反射的にタップした。逃げるみたいに。
彼だった。
プロフィールに「転職中です」と書いていたのは、自分でも少し迷った末のことだった。書かない方が印象いいのかな、とは思った。でも消せなかった。嘘ついた状態で会いたくなかった。今の自分の、一番でかい文脈を隠したくなかった。
彼からの最初のメッセージは、短かった。
「転職、大変そうですね。うまくいくといいですね」
それだけだった。変なプレッシャーもなかった。「今どんな業界受けてるんですか」みたいな詮索もなかった。「絶対うまくいきますよ!」みたいな根拠のない励ましでもなかった。
ただ、そう言われた。
それだけで、なぜか胸の奥の何かが、少しだけゆるんだ。鼻の奥がつんとした。泣くほどじゃない。でも、誰かに見てもらえた感覚があった。
代官山の夜、転職の話をやめた
最初に会ったのは、12月の初旬。代官山の小さなイタリアンだった。蔦のからまった外壁。店内にはback numberが低く流れていた。
彼は、私の転職の話を聞いた。でも、ずっと聞いているわけでもなかった。途中から、全然関係ない話になった。好きな映画の話とか、実家の犬が最近老けてきたとか、「柴犬ってシニアになると顔が白くなるんですよ」とか。
私は久しぶりに、転職のことを忘れた時間があった。パスタを食べながら笑っていた。声を出して笑ったのが何日ぶりか、わからなくなっていた。
帰り道、代官山の暗い路地を歩きながら「また会いたい」と思った。転職が決まってから、とかじゃなく。今の私のまま、また会いたいと思った。それが少し、意外だった。手のひらが、コートのポケットの中であたたかかった。
「そういう時間、いちばんしんどいですよね」
2回目は年が明けてから。新宿の居酒屋。そのころ、4社目の面接の結果待ちだった。
「どうですか最近」と聞かれて「待ってます」と答えた。
「そういう時間、いちばんしんどいですよね」と彼が言った。
詳しく聞いてくるわけでも、励ますわけでも、アドバイスするわけでもなく、ただそう言った。焼き鳥を箸で持ったまま、私は少し黙った。喉の奥に何かがつかえた感覚があった。
その一言で、背中の力が少し抜けた。「わかってくれている」と感じることの安心感が、こんなに重いとは思わなかった。
内定の電話が来た夜
4社目から内定をもらったのは、1月の末だった。
電話を切った直後、手が震えていた。嬉しさなのか安堵なのか、自分でもわからなかった。
彼にLINEした。最初にLINEしたのが、彼だった。自然とそうなっていた。親より、友人より、先に。
「決まりました」
10秒で返信が来た。
「よかった、おめでとう」
それだけだった。短いメッセージだった。でもその「よかった」の4文字に、3ヶ月分の重さがあった。面接に落ちた夜のことも、代官山で笑った夜のことも、新宿の居酒屋で「しんどいですよね」と言ってくれた夜のことも、全部知っている人の「よかった」だった。
スマホの画面がにじんだ。今度は、泣いた。
その夜、電話した。1時間くらい話した。転職の話は15分で終わって、残りは全然関係ない話だった。実家の犬の話と、最近観た映画の話と、「今度はどこの街に住むんですか」という話。
転職が終わって、始まったもの
新しい職場に入って、2ヶ月が経ったころ、付き合った。
告白というより、確認みたいなものだった。恵比寿のカフェで向かい合って、「そういう感じで、いいですか」という彼の言い方が、正確だと思った。そういう感じ、というのは、今までの2人の感じのこと。お互いわかっていた。ただ、言葉にした。
転職活動中に出会った人と付き合うとは思っていなかった。あの時期の自分は、ぼろぼろだったから。ぼろぼろのまま会って、ぼろぼろのまま好きになった。
その人が今も隣にいる。
しんどいときに隠さなかった自分を、受け止めてくれた人がいた。理由なんていらなかった。
しんどいときに出会った人は、しんどくない自分も知っている。それが一番ありがたいのに、しんどいときにしか出会えない。
よくある質問
転職活動中にマッチングアプリを始めたのはなぜ?↓
プロフィールに「転職中」と書いた理由は?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。