娘に「パパの彼女」をいつ言うか。プロフィールに“父子家庭”と書いた日
5歳の娘を一人で育てている。マリッシュに登録するとき、プロフィールに「父子家庭」と書くかどうかで3日間迷った。書いたらマッチが減る。書かなかったら、いつ言えばいい。38歳の再婚活は、最初の一行から判断の連続だった。
書けなかった。
マリッシュの登録画面で、自己紹介欄のカーソルが点滅している。築12年のマンションのリビング、娘の美咲が隣の部屋で寝たあとの22時半。テーブルの上にはドトールで買ってきたブレンドのマグカップ。冷めかけたコーヒーの匂いがする。
「5歳の娘がいます」。
この一行を打つか、打たないか。それだけのことに3日かかった。
父子家庭であることをいつ、どう書くか
38歳。製造業の品質管理をやっている。娘は保育園の年長で、来年から小学生。元妻とは3年前に離婚して、親権は自分が取った。理由は書かない。書く必要もない。
マリッシュを選んだのは、再婚活に特化していると聞いたからだ。バツイチや子持ちに理解がある人が多いらしい。職場の後輩が「先輩、マリッシュいいですよ」と言った。後輩もバツイチだった。
登録初日。プロフィール写真は、去年の夏に名古屋の東山動物園で娘と撮った写真から、自分だけをトリミングしたもの。Tシャツにデニム。背景にぼんやり動物園のフェンスが映っている。
自己紹介文で手が止まった。
「父子家庭」と書くべきか。書けば、子どもに抵抗がある人は最初からスワイプしない。時間の無駄が省ける。でも書いた瞬間に、マッチの母数が激減するのも事実だ。
書かない場合はどうなる。メッセージが進んで、会う約束ができて、会ったときに「実は娘がいます」と言うのか。それは嘘とは違うが、隠していたことに変わりない。
3日間、毎晩コーヒーを飲みながら画面を見つめた。3日目の夜、美咲が寝る前に「パパ、スマホなにしてるの?」と聞いてきた。「お仕事の調べものだよ」と答えた。嘘をついた。この嘘が小さいうちに、プロフィールの嘘もやめた方がいいと思った。
「5歳の娘と二人暮らしです。仕事と育児でバタバタしてますが、休日は娘と公園に行くのが日課です」
そう書いた。送信ボタンを押すとき、指先が震えた。みぞおちのあたりがきゅっと締まった。
最初の1週間で来た「いいね」は4件だった
正直、少ないと思った。後輩は「10件くらいすぐ来ますよ」と言っていた。でも後輩は28歳で子なしだ。条件が違う。
4件のうち2人とメッセージを始めた。1人目は33歳の看護師さん。「お子さんのこと、プロフィールに書いてるの誠実だと思いました」と最初のメッセージに書いてあった。
その一文で、胸の奥がじわっと熱くなった。
書いてよかったのかもしれない。少なくとも、この人には届いた。
メッセージは1日2往復くらいのペースで、2週間続いた。仕事の話、休日の話、好きな食べ物の話。「娘さんは何が好きですか」と聞かれて「ハンバーグとうどん、あと最近はグラタン」と答えた。「子どもってグラタン好きですよね」と返ってきた。
2人目は36歳の事務職の人。こちらもバツイチで、お子さんが8歳。「同じ状況ですね」というメッセージが来た。境遇が近いと、会話のハードルが低い。「保育園のお迎え、何時ですか」「18時です」「うちもです、バタバタしますよね」。この種の会話は、子どもがいない人とはできない。
初めて会った日の話
看護師の彼女と、名古屋駅のスタバで会った。土曜の14時。美咲は実家の母に預けた。母には「友達と会う」と言った。また嘘をついた。
「美咲ちゃん、今日はおばあちゃんのとこですか?」
彼女は座るなりそう聞いた。娘の名前を覚えていた。心臓がどくんと鳴った。メッセージで一度だけ名前を出したのを、覚えていてくれた。
「そうです。母が張り切って迎えに来てくれて」
「お母さん、協力的なんですね。いいな」
「いい、のかな。母は母で、自分が再婚活してること知ったら複雑かもしれない」
「あー、それはあるかも」
彼女はカフェラテを一口飲んで、少し黙った。黙ったあとに「でも、動いてるのはいいことだと思います」と言った。声のトーンが柔らかくて、喉の奥が詰まりそうになった。
1時間半くらい話した。仕事の話、名古屋の住みやすさの話、テレビドラマの話。娘の話は最初の5分以外ほとんどしなかった。意識してそうしたわけじゃない。自然に、大人同士の会話になっていた。
帰り際、名古屋駅の改札前で「また会えますか」と聞いた。自分から聞くのは久しぶりで、声がうわずった。
「はい、ぜひ」
その返事を聞いたとき、手のひらが汗ばんでいるのに気づいた。
娘にいつ言うか問題
3回目のデートのあと、ベッドの中で考えた。天井を見ながら。
美咲に「パパに好きな人ができたかもしれない」と言うタイミングは、いつなんだろう。
付き合う前に言うのは早すぎる。うまくいかなかったとき、美咲を混乱させるだけだ。でも付き合ってから言うのは、美咲にとって「いきなり知らない人が来た」になる。
正解がわからない。ネットで「シングルファーザー 再婚 子どもへの伝え方」と検索した。いろんな記事が出てきた。「お子さんの年齢に合わせて」「段階的に」「急がずに」。どれも正しそうで、どれも自分の状況にぴったりとは言えなかった。
5歳の美咲は、パパに彼女がいるという概念をそもそも理解できるのか。「パパのお友達」と紹介するのか。でもそれも嘘だ。
美咲が「ママは?」と聞くことがたまにある。保育園で他の子にママがいるのを見ているからだ。「ママはちょっと遠いところにいるよ」と答えている。この答えがいつまで通用するかもわからない。
4回目のデートで、彼女に聞いた
4回目のデートは栄のイタリアンだった。パスタを食べながら、思い切って聞いた。
「美咲に、どのタイミングで話そうか迷ってて」
彼女はフォークを止めた。
「……私のことを、ってことですか」
「うん」
「まだ早いと思います」
即答だった。
「えっ」
「だって、私たちもまだ付き合ってないし。美咲ちゃんにとって、来た人がすぐいなくなるのが一番よくないから」
その言葉を聞いたとき、胃の底がすとんと落ちた感覚があった。安心とも、寂しさとも違う。この人は、自分のことより美咲のことを先に考えてくれている。それが嬉しくて、同時に、自分はまだそこまで考えられていなかったことが恥ずかしかった。
「来た人がすぐいなくなるのが一番よくない」。その言葉が、頭の中でずっと回っている。
今、5回目のデートの前夜
プロフィールに「父子家庭」と書いた日から2ヶ月が経った。
明日、5回目のデートがある。娘はまだ何も知らない。母にも言っていない。会社の後輩にだけ「進んでます」と報告した。後輩は「よっしゃ」と小声でガッツポーズした。
美咲が寝たあと、リビングで明日着ていく服を選んでいる。ユニクロの紺のシャツと、少しだけいいデニム。
正直に書く。まだ何も決まっていない。付き合うかどうかも、美咲にいつ言うかも、母にどう説明するかも。全部これからだ。
38歳の再婚活は、20代の恋愛とは全然違う。自分の気持ちだけで動けない。娘の人生がかかっている。彼女の人生もかかっている。
プロフィールに「5歳の娘と二人暮らしです」と書いたあの夜、指先が震えていたのを覚えている。あの震えが、今でも正しかったのかは分からない。でも書かなかったら、この2ヶ月はなかった。
美咲が寝言で「パパ」と呼んだ。隣の部屋から小さく聞こえた。
シャツのボタンを確認して、ハンガーにかけた。明日のことは、明日考える。
よくある質問
シングルファーザーがマッチングアプリのプロフィールに子どもの存在を書くべきですか?↓
子どもに新しいパートナーの存在をいつ伝えればいいですか?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。