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恋愛体験談

春の京都で、付き合ってないのに旅行した

「友達として行こう」のはずだった京都旅行。竹林で肩が触れて、深夜に言ってしまって、帰りの新幹線で手をつないだまま品川についた。桜より、あの夜の声が今も耳に残っている。

·橘みあ·6分で読める

「京都行きたい」


LINEに打ちながら、送信ボタンを押すまで少し迷った。深夜の0時過ぎ、部屋の電気を消したベッドの上。既読がついた。3分後に「一緒に行く?」と返ってきた。


胸の奥が、ぎゅっとした。


付き合っていない。そのことはお互い、たぶんわかってる。でも毎週のように会って、帰り際に「また来週」って言って、それが3ヶ月続いてた。好きなのか、それとも居心地がいいだけなのか。自分でも答えが出ないまま、「行く」と返した。


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3月の終わり。東京駅のホームで待っていたら、向こうが先に来ていた。DEAN & DELUCAの紙袋を下げて、「コーヒー買った」って言いながら渡してくれた。ラテだった。甘さがちょうどよかった。小さなことを、ちゃんと覚えてくれてる。それだけで、なんか、だめだと思った。


新幹線の座席は隣同士。窓側に私を座らせてくれた。発車してしばらく、ふたりであまり喋らなかった。スマホを触ってたわけでも、眠ってたわけでもない。ただ、同じ窓の外を、一緒に眺めていた。


静岡を越えたあたり。雲のすき間から、富士山が見えた。


「あ」


同時に言った。目が合った。なんか、笑った。意味もなく。それだけで、車内がちょっと温かくなった気がした。好きだと思った。と同時に、違うかもしれないとも思った。その2つが胸の中に並んで、どっちが本当かわからないまま、また窓の外に視線を戻した。


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嵐山に着いたのは昼過ぎだった。平日なのに人が多かった。桂川沿いに屋台が並んで、桜はまだ七分咲きくらい。それでも川べりに人が集まって、みんなどこかそわそわしていた。春の匂い、というか、花粉と砂埃と屋台の煙が混ざったような、あのごちゃっとした感じ。嫌いじゃなかった。


竹林の道に入ったとき、人の波に押された。狭い道で、横から観光客の団体が来て、自然と距離が縮まった。肩が、触れた。


離れなかった。どちらも。


気づいてる、絶対。でも何も言わなかった。竹の葉が風に揺れる音だけが、ざわざわと頭上で鳴っていた。あの感触を、今でも右肩が覚えてる。


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宿は二条城の近く、町家を改装した小さな宿だった。予約したのは1週間前。同じ部屋に布団が2つ並ぶプランを、ふたりで画面越しに見ながら「これにしよう」って決めた。あのとき、何も言わなかった。でも、わかってた。これがどういう意味かを持つ選択だって。


夕食は宿の近くの居酒屋で。お通しに豆腐が出てきて、「豆腐好き?」って聞いたら「普通」って返ってきた。普通ってなに、って言い合いながら、燗酒を一合ずつ飲んだ。京野菜の炊いたもの、鴨のロースト、九条ねぎの入った出汁巻き卵。どれもおいしかった。でも何を食べたかより、向かいに座ってる顔ばかり見ていた気がする。


宿に戻って、布団に並んで座った。スマホをいじるふりをして、何も見ていなかった。部屋の照明が少し暗くて、外から微かに車の音がした。


「友達として来たよね、一応」


自分の口から出た言葉が、畳の上に落ちていく感じがした。


「うん」


短い返事。続きを待った。


「でも、ちょっと違う気がしてる、私は」


言ってしまった。戻れない。心臓が、変な速さで動いていた。膝の上で手をにぎった。


向こうが私を見た。少し、間があった。


「私も」


声が小さかった。でもはっきり聞こえた。部屋全体に、その2文字だけが残った気がした。


その後のことは、うまく言葉にできない。ただ、泣いたわけじゃないけど、目が熱くなった。抱き合って、それからしばらく、何も言わなかった。外の車の音が、また聞こえた。


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翌朝、宿の朝ごはんを一緒に食べた。白米と味噌汁と、小さなおかずがいくつか。「昨日のこと」には触れなかった。でも空気が変わっていた。悪い意味じゃない。なんか、やっと名前のついた感じ、というか。ふたりの間にあったものに、輪郭ができたような。


帰り道、二条城の前を通ったら、城の石垣に沿って桜が咲き始めていた。写真を撮った。向こうが「撮ってあげる」って言ったから、私ひとりで桜の前に立った。シャッターを押す前に、「ちゃんと笑って」って言われた。笑えてたか、わからない。でも笑おうとした。


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帰りの新幹線。指定席に座って、発車を待っていたとき。


「付き合いましょう」


静かな声だった。新幹線の中って、こんなに静かだっけ、と思うくらい、その言葉だけが聞こえた。


「うん」


それだけ言った。


品川につくまで、手をつないだままだった。窓の外がだんだん都会に変わっていくのを、今度はふたりで、でも昨日とは全然違う気持ちで見ていた。


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今になって思うのは、「定義が曖昧なまま」って、案外悪くなかったということ。答えを急がなかったから、竹林での肩の感触も、深夜の「私も」も、ちゃんと自分の体に刻まれた。もし最初から「恋人」というラベルを貼っていたら、あの緊張感も、言葉を選ぶ慎重さも、なかったかもしれない。


桜は毎年咲く。でも「付き合ってないのに京都に来た私たち」は、あの春にしかいなかった。


「友達として行った旅が、恋人として帰ってくる旅になった」——桜より、それが鮮明に記憶に残っている。名前のない関係にも、ちゃんと季節があった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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