語学交換でLINEしていた人が、気づいたら好きになっていた
日本語と英語の練習のはずが、3ヶ月後には中目黒を一緒に歩いていた。
語学交換アプリを始めたのは、純粋に英語の練習がしたかったからだった。
仕事で英語メールを書く機会が増えて、でも学校で習った英語と、実際に使う英語の間には大きな溝があって、「ネイティブの人と普通に話せるようになりたい」という気持ちで登録した。Hello Talk というアプリ。日本語を勉強している外国人と、英語を勉強している日本人をマッチングする仕組みで、お互いの母国語で教え合う。
いくつかのプロフィールをスクロールしていたら、ジャック(Jake、本名ジェイコブ)という名前で登録しているオーストラリア人が目に入った。「日本語を学んでいます。映画と音楽が好きです」と書いてある。写真はシドニーの海岸で撮ったもの。日本語は拙いけど、誠実そうに見えた。
メッセージを送ったのは私からだった。「Japanese and English exchange? I like movies too」。送ってから「これ正しい英語かな」と少し不安だったけど、1時間後に返信が来た。「Yes! Please teach me Japanese, I teach you English.」。
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最初の1週間は、お互いの言語のテキスト練習だった。
彼が日本語で「きょうはてんきがいいです」と送ってくる。私が「Today the weather is nice」と英語で返す。「てんきがいい = weather is nice, 天気 = weather. 良い = nice or good」と説明して、彼が「ありがとうございます!」と送ってくる。
でも3日目くらいから、語学の話と普通の話が混ざり始めた。
「好きな映画は何ですか(What is your favorite movie?)」と彼が聞いてくる。「万引き家族、Is that OK for Japanese learner?」と私が返す。「I watched it! With subtitles. Very touching.(とてもかんどうした)」と彼が答えてくる。
「かんどうした」に丸をつけて「感動した = deeply moved, touched」と送ったら、「感動した、感動した、感動した」と3回繰り返して「OK I remember now(おぼえた)」と来た。
なんか、かわいいな。そう思ったのは、そのときだったかもしれない。
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LINEに移ったのは2週間後。「LINE OK?」と聞いてきて、「OK」と答えた。
毎日やりとりするようになった。彼は日本のポップカルチャーに興味があって、特に映画と音楽の話になると長くなった。私の好きなyonigeを教えたら、「I can't understand all the words but the feel is sad and beautiful」と来た。「Feel is everything in music」と私が返したら、「That's a good sentence. Can I use it?」と言われた。
使っていいよ、と言ったら「Thanks. Your Japanese feels very like you.(あなたのにほんごはあなたらしい)」と来た。
その文を、3回読んだ。
「あなたらしい」と言われることは、日本語でも外国語でも、珍しかった。言語は「正しいか間違いか」で評価されるものだと思っていたから。でも彼は「あなたらしい」と言った。
少し、胸の奥が緩んだ。
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彼が日本に来たのは、やりとりを始めて3ヶ月後だった。
「仕事でTokyo行くことになった。会える?」
正直、驚いた。オンラインでのやりとりとリアルの出会いは別物だと思っていたから。でも断る理由もなかった。「会いましょう」と返した。
中目黒で待ち合わせた。10月の初め、川沿いにカフェが並ぶ季節。彼は写真より背が高くて、ゆったりした歩き方をしていた。「Hi」と言いながら手を挙げる。「こんにちは」と私も言う。英語と日本語が混ざった不思議な挨拶。
川沿いを歩きながら話した。英語で話して、詰まったら日本語を混ぜて、彼も日本語を使って、なんとか会話が成立した。彼は橋の上で立ち止まって、川の水面を見ながら「中目黒、beautiful」と言った。「This is my favorite area in Tokyo」と私が言ったら、「I can feel why」と返してきた。
その「feel」という言葉遣いが、ずっと気になっていた。彼はいつも「feel」で話す。Think じゃなくて。
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目黒川沿いのカフェでコーヒーを飲んだ。彼はカフェオレ、私はブラック。
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「Your Japanese is getting better」と私が言ったら、「Because of you」と彼が言った。「I learned from your way of speaking.」
「私の話し方から?」
「You use very ordinary words but somehow they feel special. I love the way you speak Japanese — it's very you.」
LINEで送ってきたのと同じ言葉だった。今度は声で、目の前で、言われた。
窓の外で川が光っていた。コーヒーが冷めていくのに気づかなかった。耳たぶが熱くなっていた。
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彼は1週間後にシドニーに帰った。また毎日LINEが来る。今は彼の日本語より、私の英語の方が伸びている。
語学交換のはずが、何かもっと別のものを交換していた。言語じゃなくて、視点とか、感じ方とか、そういうもの。
いつか、また中目黒を歩きたい。今度はもっとうまく、言葉にしながら。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。