恋のアーカイブ
恋愛体験談エッセイ

Pairsで出会った相手と、地元のもつ鍋屋で初めて顔を合わせた夜のこと

Pairsでやりとりが始まって3日目、「出身地、福岡なんですね」という一行を見て固まった。相手も天神近く、自分も天神近く——東京で会うはずが先に福岡で会うことになった、不思議な地元つながりの初対面の夜の話。

24歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

「出身地、福岡なんですね」


その一文を見た瞬間、スマホを持ったまま少し固まった。深夜0時すぎ、東京の自分の部屋。カーテンの隙間から首都高の灯りがぼんやり見える。Pairsのやりとりが始まって3日目だった。


「そうです、あなたは?」

「私も福岡です」


画面をもう一度見た。もう一度。


「どのあたりですか」と打ったら「天神の近く」と返ってきた。「私も!」という言葉が指先より先に出た。思えばあれが最初の、心臓がひとつ浮く感じだった。プロフィールの出身地なんてざっくりとしか書いていないから、まさか同じ区域だとは思っていなかった。


「中学どこですか」

「○○中学です」

「え、私の一個下の中学です」

「世界狭い」

「東京に来て同じ地元の人に会うのって、なんか変な感じしますよね」

「ほんとにそう」


共通の話題が次々と出てきた。あの定食屋、あの神社の秋祭り、川沿いの公園、高校受験で週三回通った自転車で十分の塾。全部じゃないけど、半分くらいは「知ってる」と言えた。知っている場所の話をしているのに、相手のことはまだほとんど知らない。その奇妙なアンバランスが、どこかくすぐったかった。


「実は今週末、帰省するんです」と私が送ったら「え、私も同じ週です」と返ってきた。


「じゃあ現地で会いませんか」


東京で会うはずが、福岡で先に会うことになった。


---


福岡で先に会うことになった


帰省の前日、なぜか落ち着かなかった。アプリで知り合った人と会う緊張感とは、少し種類が違った。東京で会うなら、どこか中立の場所で会う感覚がある。でも地元に「来る」というのは——相手のことをよく知らないまま、相手の「場所」に入っていく感じがした。私のルーツの話をたくさんしてきた分だけ、どこか無防備な気持ちがあった。


待ち合わせは天神のもつ鍋屋。金曜の夜、博多の街は人が多かった。師走手前の11月で、天神地下街から出ると少しだけ空気が冷たかった。息が白くなるほどではないけど、東京とは違う、湿った九州の冬の匂い。


私が先に着いて、席でメニューを開いていた。落ち着こうとして水を一口飲んだ。


そこに彼女が来た。


「あ、この人だ」とすぐわかった。写真で見ていたから当たり前なのに、それ以上の何かがあった。なんか、知ってる感じ。地元の話を何時間もしてきたから、会う前からもう、ちょっとだけ近かった。


「東京で会うより緊張しますね」と私が言ったら「なんで」と笑われた。

「地元の人に地元で会う感じが変で」

「確かに」


それだけ言って、二人でメニューを見た。


もつ鍋が来た。鉄鍋の中で白濁したスープがぐつぐつと沸いていた。博多で食べるもつ鍋は、東京のチェーン店のそれとは違う。もつが柔らかくて、ニラの量がおかしいくらい多い。湯気が顔に当たって、じんわり温かかった。


食べながら話した。箸を持ちながら、笑いながら。


「あそこのパン屋、まだありますか」

「まだあります、さすが知ってる」

「高校のとき毎日寄ってたんで」

「私も!シュガーバターのクロワッサンが——」

「それです!今もあの味ですか」

「変わってないです。というかあそこの奥さんが全然変わってなくて、それもなんかすごい」

「何十年同じ顔してるんですか」


笑い声が店の中に混ざった。隣のテーブルのサラリーマンたちの声、鉄鍋の沸く音、食器の重なる音。その全部が、子どもの頃から知っている福岡の「夜の外食」の音だった。


「東京で地元の話ができる人」より「地元で地元の話ができる人」の方がずっと近い——そのとき漠然と思った。共有できる記憶の量が違う。子どもの頃に吸っていた空気が同じ人と、同じ空気の中にいる感覚。それを言葉にしようとしたけど、うまく言えなくて、「なんか変な感じですね」と言ったら「わかる」と返ってきた。


わかる、のひとことで十分だった。


---


太宰府の梅ヶ枝餅


帰省の最終日、太宰府天満宮に一緒に行った。STARBUCKS太宰府店の前を通り過ぎながら、参道の梅ヶ枝餅を一個ずつ買った。焼きたての皮が少しパリッとしていて、中の餡が甘かった。


「修学旅行でも来たんですか」

「来た、嫌いだったけど」

「なんで嫌いだったんですか」

「人が多くて。今も多いですね」

「でもこうやって来ると違いますよ」

「違いますね」


ぽつぽつと言葉が出て、また少し黙って、また歩いた。そのテンポが、ちょうどよかった。沈黙が気まずくなかった。同じ場所を知っている人と、その場所にいる。たったそれだけで、こんなに間が持つのか、と思った。


好きかどうか、まだわからなかった。でも「また会いたい」という気持ちははっきりあった。その二つが同時にあるのが、少し不思議だった。


---


東京に戻ってから


東京に戻ってからも会うようになった。


今思えば、「地元が同じ」というのは単なる話題のきっかけじゃなかった。話の根っこのところに、最初から共有できるものがあった。価値観とか性格とか、そういう話になる前の、もっと手前のところで。


誰かと「近い」と感じるのは、共通点の数じゃないのかもしれない。同じ空気を吸って育った、という事実が、言葉より先に何かを繋いでいた。


地元の話をするとき、私たちは少しだけ子どもに戻る。そして子どもの頃の自分を知っている人を、人はどうしても、嫌いになれない。

よくある質問

どのアプリで出会ったのですか?
Pairsで出会い、メッセージのやりとりを始めて3日目に同じ福岡出身、しかも天神近くという共通点が発覚したとあります。
最初に会ったのはどこでしたか?
東京で会うはずが、福岡の天神にあるもつ鍋屋で先に会うことになったと書かれています。金曜の夜、地元での初対面でした。
「知っているのに知らない」感覚はどういう意味ですか?
同じ地域出身で中学まで近かったのに、一度も会ったことがなかった二人が、アプリのやりとりを経て初めて対面したことから来ています。妙な近さと懐かしさが混ざった感覚だったようです。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#ストーリー#地元#共通の背景

この記事が刺さったら、シェアしてください

あなたへのおすすめ

ストーリー」に興味があるあなたへ

写真が趣味の人と、東京中を歩いた3ヶ月間
恋愛体験談

写真が趣味の人と、東京中を歩いた3ヶ月間

マッチングアプリのプロフィール「写真撮りながら街歩きが趣味で」に深夜1時の衝動でDMを送った。谷中から神楽坂まで、カメラを持った彼と歩いた3ヶ月間のこと。「今日の写真がよかったから」——意味不明なのに、わかった気がした。

女性28歳
6
フェスで偶然会った人と、テントの中で朝まで話した夏
恋愛体験談

フェスで偶然会った人と、テントの中で朝まで話した夏

フジロック苗場の夜、みんなより少し遅れて笑う人がいた。人混みに押されて、気づいたら隣にいた。GYPSY AVALONの近くのテントで、空が白くなるまで話した。寝るのが惜しかった、あの夏の夜のこと。

女性27歳
6
6歳上と付き合った夜、価値観の違いに迷った話
恋愛体験談

6歳上と付き合った夜、価値観の違いに迷った話

プロフィールに「6歳上」とあって、一瞬指が止まりかけた。でも自己紹介欄の文章がどこかずれていて、それが気になって右にスワイプした。違いはたくさんあった。それでも、この人のことを面白いと思い続けている。年の差恋愛の体験談。

女性29歳
7
500通のLINEを重ねた夜、あなたは「会えます」と言った。迷った話
恋愛体験談

500通のLINEを重ねた夜、あなたは「会えます」と言った。迷った話

マッチングアプリで知り合って2ヶ月、500通を超えるLINEを重ねた。なかなか会えなかった理由を知ったとき、怒りより先に胸の奥がじわっと温かくなった。新宿のスタバで初めて見た水色のコートのことを、今でも覚えている。

女性24歳
6
武道館の夜、後悔した話。1万人の中にいたあなたのことを私はまだ知らなかった
恋愛体験談

武道館の夜、後悔した話。1万人の中にいたあなたのことを私はまだ知らなかった

YOASOBIの武道館2日目。スタンド席の右側にいた私と、同じ夜に同じ空気を吸っていた彼。マッチングアプリの最初のメッセージ「先月のライブに行ってました。武道館2日目」で手が止まった。1万人の中にいた偶然の話。

女性30歳
6
料理教室でマッチングした人と、家で初めて料理を作った夜
恋愛体験談

料理教室でマッチングした人と、家で初めて料理を作った夜

「ぜひ教えてほしいです」と送ったのは完全にノリだった。でも彼女は金曜の夜、本当にエコバッグ二つ持って来た。キッチンで肩が触れたあの瞬間のことを書く。金曜日の夜、玄関のチャイムが鳴った瞬間、心臓が跳ねた。

女性26歳
6

恋愛体験談」はまだ 298 本あります

次の記事

失恋から変わった夜。後悔して学んだこと