「プロフィール写真じゃなくて、今の顔を送ってください」と頼んだら
withで初デートの前日、相手に「今のリアルな自撮りを一枚送ってほしい」と頼んだ。送られてきた写真は、明らかに恥ずかしがっていた。その照れ顔のほうが、何百倍も好きだった。
言い訳をしておくと、別に疑ってたわけじゃない。
ただ、初対面でぎこちない時間をできるだけ短くしたかった。「この顔の人を探せばいい」というのが分かっていれば、改札前の10秒が少し楽になる。プロフィール写真は盛れていることが多いし(自分だってそうだし)、リアルな顔を一枚持っておきたかっただけだ。加工ありの正面顔じゃなくて、コンビニに行くときの顔でいい。朝起きた直後でもいい。ただ「今の顔」が知りたかった。
withでマッチした彼とは、1週間メッセージを続けて、渋谷で会う約束が取れた。前日の夜、思い切って打った。
「明日の待ち合わせ前に確認させてください。プロフィール写真じゃなくて、今のリアルな自撮りを1枚送ってもらえますか」
既読がついて、5分間何もなかった。
(やばい、引かせたかもしれない)と思って、「変なお願いだったらごめんなさい、断ってもらって全然大丈夫です」と追い打ちを打った。なんか言い訳みたいで嫌だったけど、フォローしないよりはマシだと思った。
そのすぐ後に写真が届いた。
画面を見た瞬間、声が出た。笑い声に近い何かが喉から出た。
彼は明らかに照れていた。顔の半分が手で隠れていた。「これでいいですか」というキャプションがついていた。自撮りに慣れていないのが100%伝わる構図で、光の当たり方も何も考えていなかった。背景は白い壁。たぶん自室。でも、笑っていた。少しだけ、照れ隠しのように笑っていた。
プロフィールの写真は、どこかのカフェで自然光が当たって、横顔がきれいで、「撮ってもらった写真」だった。ちゃんとした一枚で、初めて見たとき「あ、いいな」と思った一枚だ。
でも送ってきた一枚は、「今、自分のスマホで、一人で撮った顔」だった。照れながら撮った顔。
正直に言う。そっちのほうが、ずっと好みだった。
翌日、渋谷のモアイ像前で会った。ハチ公口ではなく、なぜかモアイ像の前で待ち合わせようという話になったのは、「スクランブル交差点はわかりにくいから」という理由だった。待ち合わせたとき、彼はベージュのシャツを着ていた。プロフィール写真より少し背が高かった。少なくとも私より10センチ以上あった。
「昨日の写真ありがとうございました」と言ったら「恥ずかしかったです」と即答された。
「なんで恥ずかしいんですか」
「え、だって自撮り……あんなの普段撮んないし」
「プロフィール写真は?」
「あれは友達に撮ってもらいました」
正直だった。好きだった。加工の話も、ポーズの話も、何もなく、「友達に撮ってもらいました」と言える素直さ。
「撮ってもらった写真の方が全然いいですよ」
「でも昨日送ったやつ、ひどかったですよね」
「ひどくなかった」
「嘘だ」
「嘘じゃない。笑ってたので」
彼が少し黙った。「笑ってたんですか、俺」と言った。「笑ってましたよ」と返したら、「照れてただけなんですけど」と言って、目が少し泳いだ。
カフェに入って、コーヒーを飲みながら2時間話した。話しやすかった。最初から妙に距離が近い気がした。前日に「恥ずかしい自撮り」を一枚交わしたせいかもしれない。変な武装が一枚剥がれた状態で会えた感じ。
代官山のカフェで彼が選んだのは、窓が大きくて外を向いた席だった。「外を見ながら話すのが好き」と言った。私も同じだった。向かい合うより、並んで同じ方向を見ている方が、なんか言いやすいことがある。その話になって、「分かります、なんか向かい合うと面接みたいで」「そう!なんか答えなきゃいけない感じ」って話が30分続いた。
帰り際、「写真もう一枚撮っていいですか」と彼が言った。
「え、なんで」
「今度は俺から頼む番かと思って」
渋谷のスクランブル交差点の前で、彼のスマホに向かって笑った写真が撮られた。どんな顔をしているか分からないけど、たぶん全然きれいじゃない。信号待ちの中、人が横切る瞬間の、普通の顔。
きれいじゃなくていい。それを知っていた。もうお互いに。
次の週も会った。その次の週も。3回目のデートは下北沢で、彼が「写真撮りましょう」と言うたびに、二人でわざと変な顔をするようになった。きれいな写真は、もういらなかった。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。