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恋愛体験談エッセイPairs

待ち合わせ30分前にドタキャンのLINEを打った。送信ボタンの上で、指が止まった

渋谷のハチ公前、17時。相手はもう向かっているはずだった。スマホを握る手が汗ばんで、画面が反応しなくなった。「やっぱり今日体調悪くて」の文面を打って、送信ボタンの上で指が止まった。マッチングアプリで初めて会う瞬間が、こんなに怖いものだとは知らなかった。

26・femaleの体験
·橘みあ·8分で読める

待ち合わせの30分前に、ドタキャンのLINEを打った。


「ごめんなさい、急に体調が悪くなって……」。渋谷のハチ公前、17時。まだ家にいた。着替えは終わっていた。髪も巻いた。SHIROのサボンを手首につけた。準備は完璧だった。でも玄関のドアノブに手をかけたまま、動けなくなった。


26歳、メーカーの経理。Pairsで2週間やりとりした人と、初めて会う日だった。メッセージではよく笑った。趣味の話で盛り上がった。写真も感じが良かった。なのに、いざ会うとなると、喉の奥に石が詰まったみたいに息がしにくかった。


送信ボタンの上で、指が止まった。



「怖い」の正体


怖かったのは、相手じゃない。会った瞬間に幻滅されることが怖かった。


写真は盛ってない。でも「思ってたのと違う」と思われたらどうしよう。会話が途切れたらどうしよう。つまらない人だと思われたらどうしよう。


ベッドに座ったまま、スマホの画面を見つめていた。未送信のLINE。カーソルが点滅していた。時計は16時40分。


ふと、3日前の夜のことを思い出した。「土曜楽しみにしてます!おすすめのカフェ調べました」というメッセージ。相手がわざわざカフェを調べてくれていた。代官山の小さなロースタリーで、「ここのラテが美味しいらしいです」と。


その人のことを、画面越しに「いい人だな」と思った自分がいた。


LINEの文面を全部消した。



渋谷のスクランブル交差点を、泣きそうになりながら渡った


16時55分、家を出た。心臓がバクバクしていた。東横線の中で、手すりを握る手が白くなっていた。渋谷駅に着いたとき、足が重かった。改札を出てスクランブル交差点を渡るとき、人混みの中で目が潤んだ。


怖い。でも逃げたら、この先ずっと逃げる。そう思った。


ハチ公の前に着いた。相手を探した。「グレーのコートを着てます」と言っていた。見つけた。背が高くて、少し猫背で、スマホを見ながら待っていた。


目が合った瞬間、相手が笑った。


「……すみません、めちゃくちゃ緊張してます」


自分から先に言った。声がうわずっていたと思う。


相手が少し目を丸くして、それから笑った。「俺もです。さっきから手汗やばくて」と言って、手のひらを見せてくれた。本当に汗ばんでいた。


なんか、一気に楽になった。



代官山のカフェで、1時間半


代官山の小さなカフェに入った。相手が調べてくれた店だった。窓際の2人席。ラテを頼んで、最初の5分は天気の話しかできなかった。


でも6分目に、相手が「Pairs始めたの最近ですか?」と聞いてきて、「実は今日が初めて会う日で、30分前にドタキャンしそうになりました」と正直に言った。


相手が吹き出した。「マジですか。俺は昨日の夜から緊張して寝られなくて、今日3回着替えました」。


そこからは普通に話せた。仕事の話、好きなドラマの話、実家の猫の話。メッセージで話していた内容の延長線上だった。特別なことは何もない。ただ、画面の向こうにいた人が、目の前に座っている。それだけで、不思議と嬉しかった。


1時間半が、30分に感じた。



帰り道、東横線の中で


代官山駅の改札で「今日はありがとうございました」と言ったとき、声がまだ少し震えていた。でも行きの震えとは違う震えだった。


東横線の座席に座って、窓に映る自分の顔を見た。笑ってた。


スマホを開いたら、相手からLINEが来ていた。「今日会えてよかったです。ドタキャンしなくてくれてありがとう(笑)」。


16時40分に打っていた「体調悪くて」のLINEを送っていたら、この瞬間はなかった。


怖いまま会った夜のほうが、逃げた夜より、ずっと楽だった。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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