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恋愛体験談タップル

フェードアウトした相手と2年後、下北沢の本屋で再会した

私が返さなかった最後のLINE。あの人は、まだ同じ本を読んでいた。

20代後半・女性の体験
·橘みあ·7分で読める

2年前の冬、私は一人の男の人をフェードアウトした。


タップルで出会ったユウキさん。28歳、グラフィックデザイナー。穏やかで、声が低くて、話すとき少し俯く癖がある人だった。


3回会った。1回目は渋谷のカフェ。2回目は代官山のギャラリー。3回目は六本木のバーで、少し酔って、帰り道に手が触れた。触れただけ。握らなかった。


4回目のデートの約束をした翌日、別の人とマッチした。そっちの方が写真がかっこよくて、メッセージのテンポが速くて、なんとなくそっちに気持ちが流れた。


ユウキさんへの返信が遅くなった。24時間後、48時間後、72時間後。「週末空いてる?」というメッセージに「ごめん、ちょっと忙しくて」と返して、それきり。


既読をつけたまま、返信しなかった。


3週間後にユウキさんから「お元気ですか?」と来た。読んだ。返さなかった。


それが最後。


別の人とは2回会って終わった。顔はかっこよかったけど、デート中ずっと自分の話ばかりで、私の言葉を一度も拾わなかった。帰りの電車で、ユウキさんが「それで? その続き聞きたい」と私の話に身を乗り出してくれたことを思い出した。


喉の奥がぎゅっとなった。でも今さら連絡なんてできない。自分からフェードアウトしておいて、「やっぱり」なんて。


時間が経った。アプリで何人かと会った。付き合った人もいた。半年で終わった。その人にも「なんかさ、いる時にいない感じがする」と言われた。意味がわからなかった。わかりたくなかった。


2年後。


10月の日曜。下北沢のB&Bという本屋にいた。ビールが飲める本屋。一人で来るのが好きだった。本とビールがあれば、日曜の孤独は誤魔化せるから。


新刊の棚を見ていた。村上春樹のエッセイ集を手に取って、パラパラめくっていた。


「あ」


声がした。低い声。聞き覚えがある。2年間聞いていなかったのに、体が覚えている声。


顔を上げた。


ユウキさんが、1メートル先に立っていた。


同じ本を手にしていた。村上春樹。同じエッセイ集。


心臓が暴れた。血が頭に上って、視界が一瞬白くなった。


「……久しぶり」


ユウキさんが言った。驚いた顔。でも怒ってはいない。少なくとも、そう見えた。


「久しぶり、です」


声が掠れた。2年分の罪悪感が喉に詰まっている。


「元気だった?」


「……はい。元気、でした」


嘘だ。元気じゃなかった。でもここで「元気じゃなかった」と言ったら、「じゃあなんで返信しなかったの」と言われる。当然の疑問。当然の怒り。


でもユウキさんは聞かなかった。


「村上春樹、まだ好き?」


「……はい」


「俺も」


2年前と同じだ。この人は変わっていない。話すとき少し俯く癖も、声のトーンも、私の言葉を急かさないところも。


「ビール、飲む?」


本屋のカウンターで並んでビールを飲んだ。IPAとペールエール。2年前には存在しなかった時間が、今、目の前にある。


「あの時、ごめんなさい」


自分でも驚くくらい唐突に出た。ビールの泡がグラスの縁で弾けている。そこを見つめながら言った。


「返信しなくて。急に連絡やめて。最低だったと思います」


長い沈黙。本屋のBGMがジャズに変わった。ビル・エヴァンスのピアノ。静かな旋律が、沈黙を柔らかくしてくれた。


「正直、結構きつかった」


ユウキさんが言った。俯いて、ビールのグラスを回している。


「3回目のデート、手が触れた時、あ、いけるかもって思って。で、次の約束もして。それで急に連絡途絶えて」


「……」


「何がダメだったのかなって、ずっと考えた。俺がつまらなかったのかとか。会話下手だったのかとか」


違う。あなたは何も悪くない。悪いのは、もっとキラキラしたものに目がくらんだ私だ。


「ユウキさんのせいじゃないです。本当に。私が」


「うん。今はわかる」


ユウキさんが顔を上げた。2年前より少しだけ顔が大人びている。顎のラインがシャープになった。でも目は同じ。穏やかで、少し寂しそうな目。


「でもさ、こうやって同じ本屋にいるってことは——」


言いかけて、ユウキさんが止まった。


「なに?」


「いや、何でもない」


「言ってください」


「……まだ、間に合うかなって。思っただけ」


ビールのグラスが震えた。私の手が震えていたから。


「間に合います」


早口だった。考えるより先に口が動いた。


「今度は、私から。ご飯行きましょう。私が予約します。私が誘います。前みたいにはしません。絶対に」


言いながら、目が熱くなった。鼻の奥がツンとする。本屋で泣くな。30歳手前の女が本屋でビール持って泣くな。


ユウキさんが笑った。2年前と同じ笑い方。口角が少しだけ上がる、控えめな笑顔。


「じゃあ、連絡先。変わってないけど」


「私も、変わってないです」


変わってない。番号も、LINEも、この人のことが気になっていたことも。


翌週の土曜日、神楽坂のフレンチに行った。私が予約した。ヒールを履いた。SHIROのサボンをつけた。気合が入りすぎて逆に恥ずかしかったけど、ユウキさんは「いい匂いする」と言ってくれた。2年前、代官山のギャラリーの帰り道に言えなかった言葉を、彼は今日さらっと言った。


食後、神楽坂の石畳を歩いた。10月の夜。金木犀の匂いがどこからか漂ってきた。


「ねえ」


私は立ち止まった。


「手、つないでいい?」


2年前、触れたのに握れなかった手。今度は自分から。


ユウキさんの手が、ゆっくり伸びてきた。温かかった。少しだけ汗ばんでいた。その手が、しっかり握り返してくれた。


back numberの「ハッピーエンド」が頭の中で流れた。嘘みたいにベタだけど、本当に流れた。


3ヶ月後、付き合い始めた。今度はフェードアウトしない。LINEは即レスする。会えない日は電話する。前の私がしなかった全部を、今の私はやる。


下北沢のあの本屋には、今でも2人で通っている。ビールを飲みながら、それぞれ好きな本を読む。時々感想を言い合う。時々何も言わない。そういう時間が、一番いい。


フェードアウトは、相手を消すんじゃない。自分の可能性を消す行為だ。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

このテーマを読む:フェードアウト体験談

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