タップルで「映画好き」と書いた。聞かれて、最後に見た映画が思い出せなかった
タップルの趣味タグに「映画好き」をつけた。マッチ数は増えた。でもデート当日、「最近何観ました?」と聞かれて頭が真っ白になった。新宿のカフェで、嘘がバレた23歳の記録。
タップルの趣味タグ、盛った。
「映画好き」「カフェ巡り」「読書」。3つつけた。映画は年に2本くらいしか観ない。カフェはドトールしか行かない。読書は高校の教科書が最後かもしれない。
でも、マッチ数が少なかった。登録して1週間、いいねが3件。友達に相談したら「趣味タグ増やせば?共通点多い方がマッチしやすいから」と言われて、「まあ、嫌いではないし」くらいのノリでつけた。嘘とまでは言わない。盛っただけ。
そう思っていた。
マッチした。映画好きの人と
タグを増やした翌日、いいねが来た。プロフィールに「年間50本くらい観ます」と書いてある人。名前はアヤさん。写真は映画館のロビーで撮ったやつだった。
最初のメッセージが「映画好きなんですね!最近何観ました?」だった。
胃がきゅっとした。
最後に観た映画が思い出せない。本当に思い出せない。半年前にテレビで流れていた「君の名は。」の再放送を最後まで見たのが一番新しいかもしれない。でも「君の名は。」って答えるのは——2026年に——さすがにまずい。
Googleで「2026年 映画 話題」と検索した。検索結果に出てきた映画のタイトルを1本メモして、「○○、観ました!映像がきれいで」と送った。
嘘の上に嘘を重ねている自覚はあった。手が震えていた。
新宿のカフェで、詰んだ
2週間メッセージを続けて、新宿のカフェで会うことになった。アヤさんは待ち合わせ場所に5分前に来ていて、トートバッグにパンフレットが入っていた。映画のパンフレット。本気の人だ。
「今日の前に1本観てきたんです」と笑顔で言われた。喉の奥がつっかえた。
カフェに入って、アイスラテを頼んで、5分くらいは天気の話で持った。でも当然、映画の話になった。
「メッセージで言ってた○○、どのシーンが好きでした?」
観てない。当然、答えられない。「えっと……全体的に、雰囲気が好きで……」
アヤさんの表情が、ほんの一瞬だけ変わった。笑顔のまま、目の奥が「あれ?」と言っていた。
「好きなシーンとかあります? 私は中盤の、あの屋上の場面が——」
「あ、うん、あそこいいですよね」
知らない。屋上のシーンなんて知らない。でも頷いた。汗が背中を伝った。
「観てないでしょ?」
デートの終盤、アヤさんがアイスラテのストローを噛みながら言った。
「ねえ、正直に聞いていい?あの映画、観てないでしょ」
心臓が止まった。比喩じゃなく、一拍飛んだ気がした。
「……すみません」
アヤさんは怒らなかった。むしろ、ちょっと笑っていた。
「だと思った。さっきから感想がふわっとしてて」
「タグ、盛りました。映画、年に2本くらいしか観ないです」
「2本!?」
アヤさんは本気で驚いていた。年間50本観る人からしたら、2本は衝撃だったと思う。
「なんで映画好きってつけたの?」
「マッチ増えるかなと思って……」
「増えた?」
「……増えました」
「それで私に会えたわけだ」
「はい」
「でも映画の話、できないじゃん」
「……はい」
帰り道に思ったこと
アヤさんとはその日で終わった。「映画の話ができる人がいいから、ごめんね」と帰り際に言われた。全然怒ってなくて、むしろ優しくて、それが余計にきつかった。新宿駅の改札前で「じゃあね」と手を振られた。その手を見ながら、胃の底がずしんと重かった。
新宿駅までの帰り道、人混みの中を歩きながら、みぞおちのあたりがずっと重かった。アルタ前の大型ビジョンが光っていて、すれ違う人たちが楽しそうに笑っていて、その中を一人で歩いている自分が、やけに小さく感じた。
嘘をついたのが悪いのはわかっている。でもそれ以上に、「趣味を盛らないとマッチしない自分」が情けなかった。素の自分——映画を年2本しか観なくて、カフェはドトールで、読書は教科書止まりの自分——でマッチできないと思ったから盛った。その判断が、結局は自分を追い詰めた。
電車に乗って、窓に映った自分の顔を見た。疲れた23歳がいた。Googleで映画のタイトルを検索して、観てもいない映画の感想を送った自分。「映像がきれいで」なんて、観てない人間の感想としてすら中身がなかった。アヤさんは最初から気づいていたんだと思う。でも確認するまで待ってくれていた。その優しさが、余計に痛かった。
帰ってからタップルを開いて、趣味タグを全部外した。そして「お笑い番組が好き」「ラーメン食べ歩き」をつけた。本当の趣味。マッチ数は減るかもしれない。でも次に会う人の前で、嘘をつきたくなかった。スマホを閉じたとき、手のひらが汗ばんでいた。正直になるのも、けっこう緊張する。
あの日から3ヶ月経って、ラーメン好きの人とマッチして、池袋の二郎系に行った。「にんにく増しにする?」「当然」。その会話の方が、映画の感想を捏造するより100倍楽だった。隣でずるずるラーメンをすする彼女の横顔を見て、「これでいいんだ」と思った。背伸びしない自分で隣にいられる。それが居心地いいって、今なら言える。
ただ、アヤさんの「だと思った」の顔は今でもふと浮かぶ。あの表情を、忘れていいかどうか迷っている。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。