恋のアーカイブ
恋愛体験談

付き合って2年、今が一番好きだと気づいた話

ドキドキは薄れた。でも「この人でよかった」という確信は、2年分だけ重くなっている。記念日の定食屋で、私はたぶん、一番深いところにいる。

·橘みあ·6分で読める

11月の木曜日。外はもう完全に暗くて、駅前のイチョウが街灯に照らされて黄色く光っていた。


「いつもの場所でいい」と彼が言ったのか、私が言ったのか、もう覚えていない。気づいたら二人で、吉祥寺の路地を曲がって、カウンター8席の小さな定食屋に入っていた。2年前から通っている店。壁のメニューは手書きで、豚汁が季節ごとに少しずつ変わる。


こんな夜が、今まで一番好きかもしれない——そう気づいたのは、帰り道だった。


---


2年前、私たちはドキドキしていた。たぶん、ちゃんとしていた。


最初に会ったとき、彼の話し方が妙に落ち着いていて、それがかえって気になった。焦らない人だな、と思った。焦らない人が、なぜか一番ペースを乱してくる。


初めて手を繋いだ日、渋谷から歩いて帰った。代官山あたりで雨が降り始めて、コンビニで傘を一本だけ買って、無言で近づいた。胸の真ん中がきゅっと縮んだような、あの感覚。心臓が少しずれた場所にある気がした、あの夜。


今は、ない。


その感覚は、もうない。会うたびにドキドキするかと言われたら、正直に言う。しない。


でも。


「会いたい」という気持ちは、ずっとある。それどころか、「この人じゃないと」という感覚の根っこが、2年分だけ地面に深く刺さっている。引っこ抜こうとしても、無理な感じで。


---


夏、友人にマンネリじゃないかと聞かれた。


渋谷のサラベスでランチをしながら、彼女が「2年目ってどう? もうドキドキしない感じ?」と聞いた。


私は少し考えてから「ドキドキはたしかに薄れたかも」と言った。


「それ冷めてるじゃん」


彼女の言い方は悪気がなくて、だからこそ少し刺さった。グラスを持ったまま、何も言えなかった。「違う」と言いたかったけれど、うまく説明できなかった。言葉が、間に合わなかった。


そのあと一人で考えた。本当に冷めているのか、と。


違う、と思う。でも「なぜ違うのか」を言語化するのに、数ヶ月かかった。


ドキドキは「知らないことへの期待」から生まれる。まだ見えていない部分を想像して、心拍数が上がる。それは初期にしかない燃料で、使い切ったら終わりじゃない。別の何かに変わるだけで。


「知った上での信頼」——それが今ある。


変なことを言っても笑ってくれる。しんどい日に「大丈夫?」と先に聞いてくれる。言わなくても気づいてくれることが、最近増えた。しんどいとき、私の声のトーンが変わるらしい。「さっきから低い」と彼は言う。言い当てられるたびに、少しだけ気恥ずかしい。


これは、2年かけて積み重なったものだ。最初の夜には絶対になかった。


---


定食屋のカウンターに並んで座った。


いつもの豚汁。秋になると里芋が入る。私が好きなのを、彼は知っている。注文するより先に「里芋入ってますか」と聞いてくれた。入ってた。


ご飯を食べながら、とくに大事な話はしなかった。仕事のこと、来月どこか行こうかというぼんやりした話、あとは彼が最近読んでいる本の話。私はうなずきながら、豚汁をすすっていた。


「2年経ちましたね」と私が言った。


彼は少し考えてから「そうですね、早かった」と言った。


「これからも」と言ったら「これからも」と言ってくれた。


それだけ。それだけの会話で、胸の奥のほうが、じんわりと温かくなった。ドキドキじゃない。心臓がずれる感じでもない。もっと静かで、もっと深いところから来る、何か。体の真ん中あたりが、ゆっくりと満たされていく感じ。


これが愛情なのか、と思った。こういうものなのか、と。


店を出たら冷たい風が来て、彼が黙って私の側に寄った。肩が触れた。吉祥寺の商店街はまだ人が多くて、クリスマスの飾りが少しだけ早く出始めていた。


私は歩きながら考えていた。2年前のあの夜、代官山の雨の下で感じたあの胸の縮み方を、今も好きだと思う。あれはあれで、本物だった。でも今夜の「これからも」の二言は、あの夜より深い場所に届いた気がする。


矛盾している。2年前の方が「好き」の感度が高かった。でも今の方が「好き」の密度が高い。どちらが本物かじゃなくて、たぶん両方が本物で、ただ違う種類なだけ。


好きの形が、変わった。それだけ。


---


深夜、ベッドに入ってからふと思った。


「一番好き」という言葉を、私は最初の頃に何度も使っていた気がする。ドキドキしながら、感情の波が高かったあの頃に。でも今夜「今が一番好きかもしれない」と思ったのは、静かな場所からだった。波がないところから、そっと浮かんできた言葉だった。


ドキドキは証明書じゃない。胸が痛くなければ愛じゃない、なんてことはない。


2年かけて積み上げた「知っている」が、今の私たちにはある。それが静かなのは、深いからだと思う。


あの豚汁、里芋が柔らかくて美味しかった。来月も行こうと思う。


---


*ドキドキが消えたんじゃなくて、もっと静かな場所に降りてきただけだった。*

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

この記事が刺さったら、シェアしてください

恋愛体験談」はまだ 185 本あります

恋愛体験談をすべて読む

次の記事

渋谷の雨の日、見知らぬ人から傘をもらって、1年後にその人と結婚した