先に立ち直ったのは、私の方だった
12月に別れて、3月に元彼から「元気?」が来た。その頃にはもう、私は別の映画を観ていた。
別れたのは12月だった。
下北沢の居酒屋で、お互い静かに話して、「続けるのは難しい」という結論になった。怒鳴り合いもなかった。涙もなかった。2年間付き合って、最後の夜は割と穏やかだった。それがかえって、後になってじわじわきた。
アプリで出会った彼とは、2年間、良いことも悪いこともあった。でも「別れよう」という言葉はお互い予想していたのかもしれない。だから最後が静かだったのかもしれない。
居酒屋を出て、下北沢の夜の通りを一人で歩いた。
泣くかと思ったら、泣かなかった。
電車に乗って、座って、窓の外を見ていたら、急に視界がぼやけた。泣いていた。理由はよくわからなかった。悲しいとも、寂しいとも、少し違う感覚で、ただ涙が出た。思い出ではなくて、2年間という時間の重さが、全部一度に出てきたのかもしれない。
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1月は一人だった。
友人と会って、映画を観て、本を読んで、仕事をした。特別しんどいわけじゃなかった。彼のことを考えると、少し胸が重くなった。でも一日中考えているわけでもなかった。時間が均一に流れていく感じ。
「大丈夫?」と友人に聞かれると、「大丈夫です」と答えた。嘘じゃなかった。嘘でもなかった。どちらでもある、という感じ。
下北沢に行くたびに、あの居酒屋の前を通りたくなかった。でも通っても何も感じなくなるまで、そんなに時間はかからなかった。
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2月にTinderを入れた。
特に目的があったわけじゃなかった。「また始めてみようか」という程度の気持ち。写真を撮って、プロフィールを書いて、スワイプを始めた。
いくつかマッチングして、いくつかメッセージした。そのうちの一人——ゆき——と映画の話で盛り上がった。「渋谷TOHOで観たい映画あるんですが」と言ったら「同じの観たかった、一緒に行きませんか」と来た。
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2月の末、渋谷のTOHOシネマズで映画を観た。
2時間の映画が終わって、ロビーで感想を話した。「あのシーン、どう思いましたか」「好きでした、でもその前の展開が気になって」「わかります、私も」。映画の後に話せる人は、いい人だと思っている。
ショッピングモールのカフェでコーヒーを飲んで、3時間話した。映画の話だけじゃなくて、仕事の話、好きな食べ物の話、子供の頃の話。帰り道、「また行きましょう」と言った。言えた。
電車で帰りながら、「楽しかった」と思っていた。12月の居酒屋から2ヶ月半。楽しいと思えるようになっていた。
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3月、元彼から「元気?」というLINEが来た。
11時17分。
既読をつけて、「元気だよ」と返した。「そっちは?」と来たから「元気です」と来た。「最近何してる?」「普通に。映画とか」「へえ」「うん」。そこで会話が止まった。お互い、特にそれ以上続けようとしなかった。
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返信しながら、気づいた。
「元気?」という連絡をした理由は、たぶん、立ち直れていないからだと思った。元気かどうか確認したくなるのは、まだ気にしているからだ。
私はもう、別の映画を観ていた。それだけのことだった。
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立ち直りの速さは、愛した深さと比例しない。
先に動き出した方が薄情なわけでも、後に残った方が深く愛していたわけでもない。ただタイミングが違う、それだけだ。
12月に泣いた電車の中のことを、今でも時々思い出す。でも思い出せるということは、もう痛くないということだ。
先に立ち直った自分を、責めなくていい。
「元気?」に「元気だよ」と返せた自分が、一番の答えだった。強がりじゃなくて、本当に元気だったから。
回復の速さは測れない。でも、新しい映画を楽しめたとき、立ち直っていることに気づく。
ゆきとは、3月にもう一度映画を観に行った。2回目のデートで、「また来ましょう」が実行された。渋谷から歩いて、恵比寿のカフェで話した。「最近どうですか」「普通に良いです、あなたは」「私も」。その「私も」が、自然に出てきた。
12月に下北沢で別れた夜のことを、その日の帰り道に少し思い出した。泣いた電車の記憶。でも思い出せるということは、もう遠い場所になっているということだ。
元彼の「元気?」から2週間後に、ゆきと映画を観ていた。回復の速さを測る方法はないけど、楽しいと思えることが、一番の答えだった。
先に立ち直ったのは、私の方だった。それでいい。
先に立ち直ったことを、誰かに責められる必要はない。立ち直ることは、前の恋を大事にしながら、前に進むということだ。12月の涙も、3月の映画も、どちらも本物だった。
ゆきとは今でも月に一度映画を観に行く。回復は、ゆっくりで、静かで、そして確かだった。立ち直ることは、忘れることじゃない。前の恋を胸に収めながら、今日を生きることだ。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。