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終電を逃した夜、タクシーの中で

タップルで出会った彼と4回目のデート、新宿三丁目の焼き鳥屋「てけてけ」で終電を逃した。タクシーの後部座席、彼の肩に頭をもたせかけたまま小さな声を聞いた。目を開けたら壊れる気がして、私はずっと眠ったふりをしていた夜の話。

20代後半・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

4回目のデートで、終電を逃した。


意図的に、かどうかは自分でもわからない。


彼とはタップルで出会った。プロフィール写真より実物のほうが全然よくて、1回目のデートのあと電車の中で「あれ、好きかも」って思いながらスマホの画面を閉じた、そういう相手。新宿三丁目の焼き鳥屋「てけてけ」、カウンター席、3月の湿った空気に炭火の煙が溶けていた。


時計を見なかった夜


生ビールが進みすぎた。


彼が「中学のとき、ガチでUFO見た」と言い始めてから止まらなかった。目撃証言を語る顔が本気すぎて、おかしくて、私もつい「修学旅行で枕投げして先生の入れ歯飛ばした」話を出した。隣のテーブルの知らない人たちまで振り向いて笑ってた。串から外れた肉が皿に落ちるたびに「あ」って言って、また笑った。いつの間にかビールが何杯目かもわからなくなって、焼き鳥の油と炭の匂いと、彼の笑い声だけが世界になっていた。


時計を見たら23:42。


「やば、終電」

「え、何線?」

「田園都市線。三軒茶屋」

「あ、もう無いね」


普段の私は終電チェッカーのアプリを入れてる。出発30分前にアラームをかける。合コンでも友達との飲みでも、絶対に逃さない。それなのに、この夜は一度も時計を見なかった。楽しすぎたから。いや、本当のことを言えば、見たくなかったんだと思う。時計を見れば終わりが来る。終わりが来れば、帰らなきゃいけない。


店を出た。歌舞伎町のネオンが目に刺さる。3月なのにまだ風が冷たくて、薄手のコートの前を合わせた。ワンピースの膝が心もとない。吐く息が白い。


「タクシーで送るよ。三茶なら近いし」


彼が何も言わずにマフラーを外して、私の首に巻いた。ポール・スミスの紺のマフラー。まだ彼の体温が残っていて、首元がじんわりあたたかくなる。柔軟剤の匂い。レノアかな。なんか実家を思い出す、あの、洗い立てのタオルの匂い。


胸の奥が、ちょっとだけ揺れた。


タクシーの後部座席


タクシーに乗り込む。後部座席。近い。太ももが触れそうな距離。外を流れていく新宿の夜。ビールの酔いと、疲れと、彼の隣にいる変な安心感が混ざり合って、意識がとろとろしてきた。目蓋が重い。これは演技じゃない。本当に眠い。でも、眠りたくない。もったいなくて。


いつの間にか、頭が彼の肩に触れていた。


半分は本当に眠かった。半分は、こうしたかった。その境界線が自分でもわからないまま、私は目を閉じた。


246沿いを走る。街灯が瞼の裏で白く明滅する。タクシーのウィンカーがカチカチと鳴る。彼の呼吸の音が、すぐそこにある。


聞こえた。


「……好きだ」


小さな声。独り言みたいな。私が寝ていると思って言ったのが、わかった。声に、そういう感じがあった。誰にも届けないつもりの、ひとりごと。


目を開けなかった。


開けたら壊れる。この瞬間が、この声が、なんか全部壊れる。そう思ったら心臓がうるさくなった。こんなに鼓動が速いのに彼に聞こえないのが不思議で、でも肩越しに彼の鼓動も感じたら、同じくらい速くて。


おかしくなりそうだった。好きって気持ちと、これ本当にどうしようっていう焦りと、もう少しだけこのままでいたいっていう、矛盾した全部が同時にあって。


三軒茶屋の交差点


三軒茶屋。タクシーが止まった。


ゆっくり目を開けるふりをして、「ありがと、ここでいいよ」と言った。ドアを開けて、降りて、振り返った。街灯の下で彼の顔を見た。


「ねぇ」


「ん?」


「さっきの、聞こえてた」


一瞬、彼の顔が止まった。それからみるみる赤くなった。耳まで。首まで。


「……聞こえてた?」


「うん」


沈黙。タクシーのエンジン音だけが低く響く。バックミラーの運転手さんがこっちを見てニヤニヤしてるのが見えた。なのに、なぜか恥ずかしくなかった。


「私も。好き」


言ってしまった。4回目のデートで。タクシーの横で。運転手さんの前で。ワンピースに他人のマフラー巻いたまま。全然ロマンチックじゃない、こんな場所で。でも、これ以上のタイミングはなかった。絶対に。


彼がタクシーから降りてきた。私の前に立った。目がちょっと潤んでる。街灯の光が、横顔に落ちてた。


「本当に?」


「本当に」


抱きしめられた。マフラーごと。ポール・スミスの紺のマフラーと柔軟剤の匂いに包まれて、私は目を閉じた。3月の夜、三軒茶屋の交差点、冷たい空気の中で、首元だけがあたたかかった。


運転手さんがクラクションを短く一回鳴らした。


「お二人さん、おめでとう。メーター止めときますね」


神か、と思った。


あれから1年。今でも終電を逃すと、あの夜が戻ってくる。だから二人で飲む時は、わざと逃すことにした。「てけてけ」には月に一回は行く。UFOの話と入れ歯の話は毎回出て、毎回笑う。ポール・スミスのマフラーは今も彼の手元にある。私のクローゼットの中じゃなくて彼のところに、というのが、たぶんこの話のいちばん正直な結末だ。


好きって言葉は、ちゃんと届く。たとえ、寝たふりの耳にも。

よくある質問

どのアプリで知り合ったのですか?
タップルで出会いました。プロフィール写真より実物のほうがよくて、1回目のデートの帰り電車の中で「好きかも」と気づいた相手だったようです。
タクシーの中で何があったのですか?
4回目のデートで終電を逃し、タクシーの後部座席で彼の肩に頭をもたせかけたまま、彼の小さな声を聞きました。目を開けたらその瞬間が壊れる気がして、眠ったふりをし続けたとのことです。
4回目まで終電を逃したのは意図的だったのですか?
意図的だったかどうかは自分でもわからないと本人が書いています。新宿三丁目の焼き鳥屋で生ビールが進みすぎ、気づいたら時間が経っていたようです。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

#告白#タクシー#終電#胸キュン
このテーマを読む:告白体験談

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