独占はいつから? 3人同時進行をやめた日の話
Pairsで3人と同時にやりとりしていた27歳の私が、ある夜、1人に絞ると決めた。きっかけは「誰に話したか」を思い出せなくなった瞬間だった。同時進行をやめる判断基準と、そのあとに起きたこと。
渋谷の改札で、足が止まった。
金曜の夜20時。仕事帰りのヒールが痛くて、スマホを開いたまま人混みの端に寄った。Pairsの通知が3件。タカシさん、ユウキさん、リョウさん。3人分のトーク画面が並んでいる。
私は27歳、メーカー勤務。Pairsを始めて2ヶ月。「同時進行は当たり前」と友達に言われて、素直に3人とやりとりしていた。
「この話、誰にしたっけ?」が始まった
タカシさんに昨日観た映画の話をしようとして、指が止まった。あれ、この話、もうした? しかもユウキさんにだったかもしれない。胃のあたりがきゅっと縮む。
3人とも悪い人じゃなかった。タカシさんは恵比寿のイタリアンに連れて行ってくれたし、ユウキさんはLINEの返信が丁寧だった。リョウさんは笑い方が好きだった。
でも3人いると、1人ひとりへの解像度が下がる。「週末何してた?」という質問を3回して、3回とも微妙に違うリアクションを返す自分が、だんだん気持ち悪くなってきた。デートの前日に「明日は誰だっけ」とカレンダーを確認する自分。映画のレビューを送ろうとして「これ送ったの誰だっけ」と履歴を遡る自分。同時進行って、便利なんじゃなくて忙しいだけだった。
代官山のカフェで友達の美穂に相談したら、あっさり言われた。
「それ、誰のことも好きじゃないんじゃない?」
ドトールのアイスラテが、喉を通らなかった。
3回目のデートで気づいた「差」
翌週、リョウさんと3回目のデートで下北沢を歩いた。古着屋を覗いて、カレー屋に入って、商店街をぶらぶらした。
カレーを待っている間、リョウさんが言った。
「あのさ、前に言ってた映画、観たよ」
「え?」
「花束みたいな恋をした。○○ちゃんが好きって言ってたから」
心臓がドクンと鳴った。私が話したことを覚えていて、わざわざ観てくれた。タカシさんにもユウキさんにも、同じ映画の話はしていたはずだ。でも「観たよ」と言ってきたのは、リョウさんだけだった。
カレーのスパイスの匂いの中で、手のひらがじわっと汗ばんだ。
「どうだった?」
「うん、あの終わり方さ——」
リョウさんが映画の感想を話している間、私はずっと彼の横顔を見ていた。ああ、この人の話を聞いているとき、私はスマホを触らない。他の2人のときは、トイレに行くふりして通知を確認していたのに。
カレーを食べ終えて、下北沢の商店街を歩いた。古着屋の前で立ち止まったとき、リョウさんの肩が私の肩にぶつかった。ほんの一瞬、体温が伝わった。心臓がトクンと跳ねた。タカシさんに手が触れたときも、ユウキさんと目が合ったときも、こんなふうにはならなかった。
やめると決めた夜のこと
その日の帰り道、下北沢の駅に向かって歩きながら、スマホを開いた。タカシさんからのLINE、「週末空いてる?」。ユウキさんからのLINE、「今日何してた?」。
2人に返信を打とうとして、指が動かなかった。今日リョウさんと食べたカレーの話を、他の人にもするのか。「今日はカレー食べてた」って。嘘はつかない。でもリョウさんと一緒だったことは言わない。その省略が、もう無理だった。
喉の奥がつまる感覚。みぞおちが重い。
帰宅して、シャワーを浴びて、髪を乾かしながら考えた。判断基準は意外とシンプルだった。
「その人の前で、他の人の存在を隠したくなったら」——それが、1人に絞るタイミングだった。
タカシさんとユウキさんには、正直に「他に気になる人ができました」と伝えた。二人とも大人の対応をしてくれた。タカシさんは「頑張って」と言ってくれた。ユウキさんは既読だけだった。胸が痛かった。申し訳なさと安堵が同時に来て、しばらくスマホを裏返しにしてベッドに倒れ込んだ。
リョウさんに絞った後に起きたこと
1人になった途端、怖くなった。保険がない。この人がダメだったら、またゼロからやり直し。
でも不思議なことに、リョウさんへのメッセージの質が変わった。3人に分散していたエネルギーが1人に集まると、「何を送ろう」じゃなくて「これを伝えたい」になった。仕事帰りに見つけた猫の写真。「リョウさん猫好きって言ってたよね」。前なら3人に同じ写真を送っていたかもしれない。でももう、この猫はリョウさんにだけ見せたい猫だった。
4回目のデートは吉祥寺の井の頭公園。ベンチに座って、リョウさんが買ってきた焼き芋を半分こした。甘くて、あったかくて、手がべたべたになって笑った。
「ねえ、Pairsってまだ使ってる?」
リョウさんが突然聞いてきた。心臓が跳ねた。
「……消した。先週」
「俺も。実は昨日」
焼き芋の湯気の向こうで、リョウさんが笑った。その笑顔を見た瞬間、選んでよかったと思った。
3人いたから比べられた。比べたから気づけた。でも、比べ続けることに耐えられなくなった夜が、答えだった。
独占は、決めるものじゃない。耐えられなくなるものだ。
よくある質問
同時進行をやめるタイミングはどう判断すればいいですか?↓
1人に絞った後、不安にならないですか?↓
同時進行していた相手への断り方はどうすればいいですか?↓
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。