32歳でゼクシィ縁結びを始めた話。婚活という言葉と向き合った3ヶ月
「婚活してる」と口にするのが怖かった。32歳の夏、Pairsに疲れてゼクシィ縁結びを開いた夜、恵比寿のビストロで同じ気持ちの人に出会うまでの3ヶ月の記録。8月の終わり、丸の内のオフィスのトイレで泣いた。
8月の終わり、丸の内のオフィスのトイレで泣いた。
泣いた理由はPairsの男に振られたとか、そういう派手な話じゃない。半年間やりとりを続けた相手に「やっぱり結婚はまだ考えられない」と言われて、スマホを握ったまま個室に入って、声を殺して3分だけ泣いた。蛇口をひねって顔を洗って、また自分のデスクに戻った。誰にも気づかれなかった。
その夜、自宅の狭いワンルームで、検索欄に「婚活 アプリ」と打ち込んでいた。指先が少し冷たかった。
ゼクシィ縁結びをダウンロードした夜
「婚活」という言葉が、ずっと苦手だった。
「失敗した人が行き着く場所」みたいな響き。合コンで「最近どう?」と聞かれて「婚活してる」と答える自分を想像するだけで、喉の奥がきゅっと詰まる感じがした。
でも32歳の夏、Pairsを半年使い果たした後で、選べる立場じゃないことはわかっていた。ゼクシィ縁結びをダウンロードして、プロフィールを書き始めた。「結婚に対する考え方」の欄で手が止まった。「1年以内」「2〜3年以内」「いつかはしたい」の3択。
「いつかはしたい」を選びそうになった。でもそれじゃPairsと同じだ。「2〜3年以内」をタップしたとき、心臓がどくんと跳ねた。「婚活をしている32歳の自分」を、画面の文字として認めた瞬間だった。
プロフィール審査の3日間
登録して最初の壁は、審査の待ち時間だった。
3日間、何もできなかった。承認メールが届いたのは水曜日の午後10時。代官山の駅前のドトールで残業帰りのアイスコーヒーを飲んでいるときだった。スマホが震えて、「承認されました」の通知を見た瞬間、喉の奥に「いよいよだ」というものがつかえた。
最初の1ヶ月でいいねが来た数は、Pairsの同じ時期より少なかった。でも、プロフィールを開くたびに空気が違うと感じた。職業と年収が書いてある。結婚意欲度が「2年以内」か「1年以内」になっている。写真がスタジオ撮影らしい清潔感のあるものばかり。
Pairsと同じ人間が使っているはずなのに、画面の向こうから伝わる本気度が全然違った。
恵比寿のビストロで出会った人
3人目に会った人が、よかった。
恵比寿のビストロで2時間、赤ワインを飲みながら話した。仕事の話、家族の話、なぜ婚活を始めたかの話。窓の外はもう暗くて、テーブルのキャンドルが彼の横顔を照らしていた。
「僕、婚活って言葉が好きじゃなくて」
彼がそう言ったとき、グラスを持つ手が少し震えた。同じだ、と思った。
「……私も」
声がかすれた。彼は少し笑って、ワインを一口飲んでから言った。
「でも、ゼクシィ縁結びを選ぶって、結局それが正直ってことじゃないですか」
胸の奥で何かがほどけた。SHIROのサボンみたいな、彼のシャツからふわっと清潔な香りがした。婚活という言葉との距離が、その一言で少し縮まった気がした。
3ヶ月後の今
帰り道、恵比寿駅の改札に向かいながら、手のひらが汗ばんでいることに気づいた。9月の夜風が気持ちよかった。back numberの「水平線」をイヤホンで聴きながら、少しだけ泣きそうになった。嬉しかったのか、安心したのか、自分でもよくわからなかった。
3ヶ月経った今、付き合っているわけでも婚約しているわけでもない。でも「婚活をしている自分」を恥ずかしいと思う気持ちは、あのビストロに置いてきた。
恥ずかしさを捨てた場所で出会う人は、同じものを捨ててきた人だった。
「婚活」という言葉を受け入れた夜
ゼクシィ縁結びを使い始めて1ヶ月目の夜、自宅のユニットバスに浸かりながら、「婚活」という言葉を声に出してみた。壁に反響して、自分の声が返ってきた。恥ずかしかった。32歳で婚活。何かに負けた気がしていた。
でも2人目に会った人が、同じことを言った。銀座のルノアールで向かい合って、ホットコーヒーの匂いのなかで。
「婚活って言葉、最初は抵抗あったんですよね」
彼は34歳、メーカー勤務。目が少し充血していて、残業明けだと言っていた。
「でも、真剣に探してるってことでしょう。恥ずかしくない」
その言葉が、胃の底のほうにゆっくり沈んでいった。温かいものが広がるみたいに。
丸の内のトイレで泣いた日から3ヶ月。「やっぱり結婚はまだ考えられない」と言われた夜の痛みは、まだ残っていた。でも、同じ場所にいる人がいた。それが全部を解決するわけじゃなかったけど、一人じゃないと思えた。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。