35歳、「まだ間に合う」と自分に言い聞かせた半年間の記録
35歳でOmiaiを始めた。年齢フィルターで弾かれ、「いいね」は週に2件。同年代の男性はほぼ既婚。それでも半年後、丸の内のビストロで「この人だ」と思える人に出会えた理由を書く。
年齢フィルターを「35歳まで」にしている男が、こんなに多いとは知らなかった。
Omiaiに登録したのは去年の9月。35歳の誕生日を過ぎた翌週だった。会社の後輩が結婚して、披露宴で花束を受け取った帰り道、表参道の交差点で信号待ちをしながらアプリをダウンロードした。ヒールが痛くて、ストッキングの左足に伝線が入っていて、手にはブーケ。笑えるくらいベタな光景だった。
「35歳」という壁の正体
最初の1週間で現実を突きつけられた。
「いいね」が来ない。正確には、来る。でも週に2件。後輩が「私、1日30件来るんですよ」と笑っていたのを思い出して、喉の奥がきゅっと詰まった。
自分のプロフィールを何度も見返した。写真は友達に撮ってもらった自然な笑顔。自己紹介文も丁寧に書いた。趣味は料理と映画鑑賞。年収も平均以上。何が悪いのかわからなくて、深夜2時にベッドの中でスマホを握りしめていた。
わかったのは、多くの男性が検索条件を「20代〜34歳」に設定しているということだった。私はそもそも検索結果に表示されていない。存在すら認識されていない。
心臓のあたりがずんと重くなった。「35歳」という数字が、こんなに分厚い壁だとは思わなかった。
ゼクシィ縁結びとの併用を始めた10月
1ヶ月目の惨敗を受けて、ゼクシィ縁結びも並行で始めた。こっちは婚活に特化しているぶん、同年代の男性が多い。Omiaiで感じた「場違い感」が少し薄れた。
でも別の問題が出てきた。同年代の男性は「35歳女性」に何を求めているのか。プロフィールを読んでいると、「子どもが欲しい」と書いている男性が多い。私も子どもは欲しいと思っていた。でもその書き方が、なんというか、「期限」を突きつけてくるようで。
最初にマッチした男性とは3日間やりとりして、4日目に「お子さんは考えていますか?」と聞かれた。まだ会ってもいないのに。指先が冷たくなって、スマホを伏せた。
「考えています」と返した。嘘じゃない。でもその質問を4日目にされることの意味を、ずっと考えていた。私はスペックシートじゃない。
12月、3人目の男性との丸の内デート
11月まで、実際に会ったのは2人。1人目は表参道のカフェで会って、90分間ずっと自分の仕事の話をしていた人。2人目は新宿で会って、「前に会った人は35で焦ってる感じがすごかった」と平然と言った人。帰りの丸ノ内線で、手が震えた。怒りなのか悲しみなのか、自分でもわからなかった。
3人目は12月の頭だった。Omiaiでマッチした、37歳の男性。プロフィールに「休日は散歩と読書」とだけ書いてあって、写真は1枚。公園のベンチで本を読んでいる横顔。
メッセージのやりとりは淡々としていた。「趣味」の話じゃなくて、「最近読んだ本」の話から入って、村上春樹の『ノルウェイの森』について30往復くらいした。
「会いませんか」と言ったのは、私の方だった。
丸の内のビストロ「AUXAMIS」で会った。彼はネイビーのコートを着ていて、入口の前で少し背中を丸めて立っていた。目が合った瞬間、心臓がどくんと鳴った。写真より少しだけ目尻のシワが深くて、それが良かった。
「すみません、寒い中待たせて」
「いえ、今来たとこです。……って、これ絶対嘘なんですけど」
彼が笑った。声が低くて、少しかすれていて、冬の空気に合う声だった。
赤ワインとグラタンと、聞かれなかった質問
席についてメニューを開きながら、「何飲みます?」と聞いたら「赤ワインでいいですか。あ、お酒大丈夫でしたっけ」と確認された。当たり前の気遣いなのに、2人目のデートで「俺ビール」と一方的に注文された記憶が上書きされて、胸の奥がじわっと温かくなった。
グラタンを分け合いながら、2時間話した。仕事の話、実家の話、休日の過ごし方。彼は黙って聞く時間が長くて、相槌が小さいんだけど、的確だった。私が「35歳って、アプリだと不利で」と口を滑らせたとき、彼は少し間を置いて言った。
「僕は37なんで、人のこと言えないですけど」
それだけ。否定も肯定もしない。ただ隣に並んでくれた感じ。手のひらにじんわり汗がにじんだ。
2時間半のデートの中で、彼は一度も「子どもは?」と聞かなかった。結婚観も聞かなかった。聞かれなかったことに、帰りの東京駅のホームで気づいた。イルミネーションがやけに眩しくて、コートのポケットの中で拳を握った。
半年間の記録を振り返って
あの日から3ヶ月経って、彼とは今も会っている。付き合ったのは1月。丸の内で会ったあの夜から、ちょうど1ヶ月後だった。
35歳で婚活アプリを始めて、半年間で学んだことは山ほどある。年齢フィルターの現実、スペック査定のような質問、「焦ってる感じ」と言われる理不尽さ。全部本当にあった。
でも同時に、こうも思う。あの半年間がなかったら、丸の内のビストロで彼の少しかすれた声を聞くこともなかった。「いいね」が週2件しか来なかった夜も、帰りの電車で手が震えた日も、全部あの夜に繋がっていた。
「まだ間に合う」と自分に言い聞かせていた半年間。間に合ったかどうかは、正直まだわからない。でも少なくとも、間に合わせようとした自分を、今は嫌いじゃない。
35歳は遅くない。でも、楽でもない。その両方が、本当のことだった。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。