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恋愛体験談エッセイ

「またどこかで」と言った夜に後悔した。3日後にLINEが来た話

飲み会の帰り、友達の彼氏の友人と偶然同じ方向だった。渋谷から乗った電車の中で30分、なぜかずっと話し続けた。「またどこかで」と言って別れた人から3日後にLINEが来た。アプリでも職場でもない出会いの、その続きの話。

26歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

「またどこかで」と言ったのに、3日後にLINEが来た。


道玄坂の坂の上から街を見下ろすと、ネオンが滲んで見えた。飲みすぎたせいか、それとも少し寒かったからか。マフラーを首に巻き直しながら、4人でゆっくり歩いた。


最初から「こういう夜になる」とは思っていなかった。友達の彩乃が「うちの彼氏と友達来るんだけど、一緒に飲まない?」と誘ってきたのは3日前で、断る理由もなかったから「いいよ」と返しただけだった。アプリを消してから2ヶ月が経っていた。


彼——名前は健斗と聞いた——は、最初の1時間ほとんど喋らなかった。彩乃の彼氏の涼介と小声で何か話していて、こっちの会話にはあまり入ってこなかった。失礼とかじゃなくて、ただそういうテンポの人なんだな、と思った。


でも、唐揚げの最後の一個を「どうぞ」と私の方に押してきたとき、目が合って、ちょっと笑った。それだけだった。


同じ方向というだけで乗った電車の中で


解散しようとしたら、渋谷から東横線の方向が同じだとわかった。彩乃たちとは改札で別れて、健斗と二人で乗り場に向かった。


気まずくなるかな、と思ったのに、ならなかった。


電車を待ちながら「さっきの話、続き気になったんですけど」と彼が言った。私が途中まで話した、バイト先の店長が実は元バンドマンだったという話。どうでもいい話なのに、覚えていた。


中目黒、祐天寺、学芸大学。駅が過ぎていくたびに、もう少し乗っていればよかったと思い始めた。話が途切れる瞬間がほとんどなかった。趣味とか仕事とか、そういう問答じゃなくて、なんか、ただ喋っていた。スターバックスのあの季節限定ドリンクが年々甘くなってる気がするとか、吉祥寺に住んだことがある人はみんな吉祥寺のことが好きだとか。どうでもいい話を、どうでもよくない顔で聞いてくれる人だった。


電車の揺れのリズムと、健斗の話すテンポが、なんか合っていた。声が低くて、落ち着いていて、でも面白いことを言う時だけ少し目が細くなる。それに気づいたのは、学芸大学を過ぎたあたりだった。窓の外に、夜の住宅街が流れていた。


私が降りる駅に近づいたとき、胸のあたりがすっと落ち着かなくなった。べつに緊張とかじゃない。なんだろう、この感じ。連絡先を聞くべきか聞かない方がいいか、そういう計算をしている自分がいて、でも計算していることが少しみっともなくて、結局何も言えなかった。


ドアが開いて、「じゃあ」と立ち上がった。彼は「またどこかで」と言った。


笑いながら「はい、またどこかで」と返してホームに降りた。電車が動き出して、窓の向こうに彼の横顔がちらっと見えた気がした。気がしただけかもしれない。


家に着いてから、スマホをいじりながら、あの30分のことをぐるぐると考えた。でも、連絡先も知らないし、どうしようもなかった。こういう夜はたまにある。なんか良かったな、で終わる夜。ちょっとだけ名残惜しいけど、それだけの夜。そう思って寝た。


3日後に、彩乃からLINEが来た


3日後、彩乃からLINEが来た。


「健斗くんからさ、あなたのLINE聞いていい?って連絡来たんだけど」


画面を見て、3秒くらいフリーズした。


「え、」って打って、消して、「え、なんで」って打って、また消した。最終的に「え、まじ?」とだけ送った。彩乃は「まじだよ笑」と返してきて、それからすぐに健斗から直接LINEが届いた。


「渋谷の話の続きが聞きたくて。良かったらまた」


それだけだった。短くて、圧がなくて、でもちゃんとした文章だった。


スマホを置いて、天井を見た。


部屋の電気がついたままで、外でカラスが鳴いていた。なんか変な感じだった。良い意味で、変な感じ。こういうことって、あるんだ。アプリじゃなくて、マッチングでもなくて、ただ帰り道が同じだっただけで。


あのとき、自分から連絡先を聞けなかった自分に、ちょっとだけ感謝した。彼の方から動いてくれたことで、なんか、嬉しさがまっすぐだった。計算の余地がなかった。ただ「良かった」と思えた。


LINEに返事を打ちながら、また少し照れくさかった。「続き、ちゃんと話しますね」と送った。既読がついて、すぐにスタンプが来た。犬のキャラクターが手を振っているやつ。


アプリで出会えなかったものが、ここにあった


アプリを使っていた頃、毎日のようにプロフィール写真を見ながら、この人はどんな人だろう、好みだろうか、会ってみてどうだろうか、と考えていた。出会う前から値踏みしている気がして、なんか疲れていた。相手も多分、同じことをしていた。スマホの画面越しに互いを採点しあって、やっと会って、やっと話して。その順番に、どこかずっと違和感があった。


健斗のことは、話してから顔を覚えた。プロフィールも趣味欄も何も知らないまま、30分話した。それが良かった、と今ならわかる。情報が先にあると、人間を情報で見てしまう。でも、あの夜は違った。唐揚げの最後の一個と、どうでもいい話と、駅が過ぎていく感覚だけがあった。


翌週、待ち合わせたのは渋谷だった。またあの居酒屋に行こうか、という話になって、道玄坂を上がりながら「この坂、急いで上ると死にますね」と健斗が言った。「間違いない」と返した。くだらない会話が続いた。それが、楽だった。


「電車の続きで言ったら」と健斗が言った。「まだバイトの店長の話してましたよね」。覚えてた。あの電車の中で話しかけてきた一言を、まだ覚えていた。それが、少しだけ嬉しかった。計算とか戦略とか、そういうものの外側にある嬉しさだった。


なんか、いいな。


自分では作れないのに、それが来てしまったけど。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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