恋のアーカイブ
恋愛体験談エッセイPairs

閉まりかけた電車のドアから入ってきた夜。後悔しなかった話

Pairsで2週間やりとりしていた相手が、閉まりかけた井の頭線のドアから滑り込んで私の隣に立った。世界が狭すぎて、笑えなかった。でも笑った。マッチングアプリとリアルが交差した、偶然すぎる出来事の話。

26・女性の体験
·橘みあ·4分で読める

正直に言う。終電近くにPairsの相手が隣に来たのに、気づかなかった。


疲れた人と、これから帰る人と、もう少し飲みたかった顔の人が混ざって、でも全員が静かで、揺れながら外の暗闇を見ている。私はその日も渋谷から乗って、永福町に向かっていた。22時を少し過ぎていた。スマホで見るものも特になくて、窓の外を見ていた。


三鷹台を出た直後だった。


ドアが閉まる直前に、滑り込むように乗ってきた人がいた。「おっとっと」という感じで重心を取り直して、手すりをつかむ。その人が私の隣に立った。


何気なく横を見た。


首が止まった。


スマホで何か読んでいる横顔。鼻梁。薄い唇。2週間前から毎日やりとりしている人だった。


---


Pairsで知り合っていた人が、ドアが閉まる前に乗り込んできた


Pairsで彼——松本さん——とマッチングしたのは2週間前で、毎日20往復くらいメッセージが続いていた。「会いたいですね」まで話は進んでいたのに、お互いのタイミングが合わなくて、まだ実際には一度も会っていなかった。


私の方は彼の写真を何度も見ていたから、顔はわかった。でも本人も私の写真を見ているわけで——つまり、今すぐ気づかれる可能性がある。


声をかけるべきか。かけないべきか。


0.5秒で考えて、かけるのをためらった。もしかしたら別人かもしれない。いや、でもあの写真と同じ顔だった。でも声をかけて「違います」と言われたら最悪だ。黙っていたら気づかれずにそのまま過ぎるかも——そのまま永福町で降りて、「あの人だったかな」と一生思い続けることになる——。


そのとき向こうがスマホから顔を上げて、私の方を見た。


1秒くらい、お互い固まった。


「…佐藤さん?」と彼が言った。声が、LINEで想像していたのとほぼ同じ低さで、少し驚いた。


「…松本さんですよね」と私が言った。


二人で笑った。電車の中なのに、笑い声が出た。


---


「永福町ですか」と彼が聞く。「そうです。松本さんも?」「そうです」。


世界が狭すぎる。


電車が永福町に着いて、二人で降りた。改札を出て、夜の住宅街に出た。時刻は22時17分。外の空気がひんやりしていた。


「どっちに帰ります?」「西の方です。松本さんは?」「私も西」。


「じゃあ同じ方向ですね」「そうですね」。


少し間があった。


「せっかくなんで、飲みませんか」と彼が言った。「アプリで会おうって話してたやつを、ここで会ってもいいんじゃないかと」。


私は笑いながら「それはそうですね」と答えた。「飲みましょう」。


---


永福町で、瓶ビールで乾杯した


駅前の居酒屋に入ったのは22時半。2人とも荷物があったけど、脱いだコートを椅子にかけて、瓶ビールで乾杯した。


「これ、どっちかというと映画っぽいですよね」と私が言ったら、「コメディ映画ですね」と彼が笑った。「でも本当にドアが閉まる直前に乗ってきたから」「そう、そこがすごい。あと1秒遅かったら乗れてない」「運命感ある」「そんな大げさな」「いやでも、井の頭線、永福町ですよ。なかなか」。


話は思ったよりずっとスムーズだった。テキストで2週間話していた人の声が、想像と少し違ったけど、慣れたら逆にしっくりきた。高さが想像より低かった。「声、思ってたより低いですね」と言ったら、「そちらも高い」と言われた。「失礼じゃないですか」「いい意味で。明るい感じがして」。


仕事の話、週末どこに行くかの話、この辺のおすすめの店の話。話題が転がっていった。気づいたら深夜1時近くになっていた。


「帰りましょうか」という流れになって、居酒屋を出た。夜の永福町の通りを並んで歩いて、駅前で別れた。


「またLINEします」と彼が言った。「待ってます」と私が答えた。


駅まで歩きながら、「なんか良かった」と思った。偶然じゃなくて、必然みたいな気がした。


---


それから6ヶ月が経った今も、一緒にいる。


「どこで付き合うことになったんですか」と友人に聞かれると、「電車で偶然乗ってきた」と答えている。毎回「え」という反応をされる。


世界は、思ったより狭い。でも狭い方が、会いやすい。


あの夜、ドアが閉まる直前に乗ってきた人が、今は週末に一緒にご飯を食べている。永福町という地味な駅が、なぜか好きになった。乗り越しそうになるたびに、あの夜を思い出すから。


偶然だって、重なれば必然になる。


バレンタインデーに、「電車のドアが閉まりかけたとき、一番焦った」と彼が言った。「乗らなかったらどうなってたんですか」「家に帰ってLINEで連絡してました、たぶん」「それでよかったんじゃないですか」「でもあの偶然がよかった。計画してたら、もっと普通だった」。普通じゃない出会いは、普通じゃない関係を作る。そう思うことにした。


土台があれば偶然も必然に変わるのに、声をかけられた。

よくある質問

どのアプリで知り合っていたのですか?
Pairsで2週間やりとりしていた相手でした。まだ実際には会ったことがない状態で、毎日テキストを交わしていた人でした。
どこで偶然出会ったのですか?
井の頭線の終電近い時間、三鷹台を出た直後に閉まりかけたドアから滑り込んできた人が、筆者の隣に立ったとのことです。横を見たら、毎日やりとりしている相手の横顔でした。
世界が狭すぎて笑えなかった、とはどういう気持ちだったのですか?
2週間毎日テキストを交わしていた相手が、偶然同じ電車の隣に立つという状況の奇妙さに、最初は笑えなかったけれど笑ったとのことです。現実が追いつくまで一瞬かかった、という感覚が伝わってきます。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

この記事が刺さったら、シェアしてください

あなたへのおすすめ

偶然の出会い」に興味があるあなたへ

フェードアウトした夜の後悔。返信しなかった理由を、今なら言葉にできる
恋愛体験談

フェードアウトした夜の後悔。返信しなかった理由を、今なら言葉にできる

私がフェードアウトした。3人に。既読をつけて、返信しなかった。「忙しかった」は嘘だ。本当の理由はもっと情けなくて、もっと身勝手だった。された側の話はたくさんある。した側の話は、あまりない。

男性Pairs|28
9
フェードアウトされた夜から30日間の後悔。次の人に会うまでの記録
恋愛体験談

フェードアウトされた夜から30日間の後悔。次の人に会うまでの記録

木曜の夜、既読がついたまま返信が来なくなった。金曜、土曜、日曜。3日待って、「ああ、フェードアウトされたんだ」と理解した。そこから30日後に次の人と会うまでの記録。1日目から30日目まで、全部書く。

女性Pairs|26
10
初めて彼の家に泊まった朝。洗面台に歯ブラシが2本並んでいた
恋愛体験談

初めて彼の家に泊まった朝。洗面台に歯ブラシが2本並んでいた

Pairsで出会って3ヶ月。初めて彼の家に泊まった翌朝、洗面台に並んだ2本の歯ブラシを見つけた。1本は彼の青い歯ブラシ。もう1本はピンクだった。問い詰めるか、見なかったことにするか。

女性Pairs|26歳
6
同棲3日目の夜、カレーの鍋で初めて喧嘩した。後悔もしてない
恋愛体験談

同棲3日目の夜、カレーの鍋で初めて喧嘩した。後悔もしてない

Pairsで出会って1年、同棲を始めた。3日目の夜にシンクを見て固まった。初日に作ったカレーの鍋が、まだそこにある。洗われていない。28歳の私が初めて「この人と暮らすのは無理かもしれない」と思った瞬間と、その後の話。

女性Pairs|28歳
6
Pairsを開くのが怖くなった夜、後悔した3ヶ月目の話
恋愛体験談

Pairsを開くのが怖くなった夜、後悔した3ヶ月目の話

Pairsの通知音を聞くと心臓がぎゅっとなる。既読無視されるたびに胃が痛む。3ヶ月目、スマホの通知をオフにした。それでも怖かった。27歳の私がアプリ依存になりかけて、少しだけ回復するまでの記録。

女性Pairs|27歳
7
100人とマッチして、1人も会いたくなかった月。中目黒のアパートでアプリ疲れの底を見た
恋愛体験談

100人とマッチして、1人も会いたくなかった月。中目黒のアパートでアプリ疲れの底を見た

Pairsで100人とマッチした。メッセージも来た。でも1人も会いたくならなかった。疲れているのはアプリじゃない。「選ばれる側」でい続ける自分に疲れていた。

女性Pairs|29
6

恋愛体験談」はまだ 298 本あります

次の記事

別れを決めた夜から3ヶ月、後悔した引き延ばしの話