3回会って、体だけ先に知ってしまった朝、好きかどうかの答えが出なかった
Tinderで知り合って3回目、体の関係になった翌朝。好きか嫌いかじゃなくて、何かわからないものが喉の奥に詰まったまま、私は彼の寝顔を見ていた。
朝の5時過ぎ、渋谷のワンルームに薄い光が入ってきた。
カーテンが安物で、隙間から街灯みたいなオレンジが漏れている。彼はまだ眠っていた。横向きで、肩のあたりに毛布がかかっていて、背中が規則的に上下している。私はその背中を見ながら、自分が今どういう状態なのか、うまく把握できていなかった。
体は正直だった。だから余計に混乱した。
Tinderで最初にマッチしたのは二ヶ月前で、最初のデートは代官山のカフェだった。FUGLEN TOKYOで、私はオートミールラテを頼んで、彼はブラックコーヒーを二杯飲んだ。会話は弾んだ。仕事の話、地元の話、どうでもいい音楽の趣味。二回目は中目黒を散歩して、川沿いのベンチに座って、星野源の「Pop Virus」が流れるイヤホンを片方借りた。そのときに、あ、この人のこと好きかもしれない、と思った。思った、と思う。
三回目の昨夜。渋谷で飲んで、気づいたら彼の部屋にいた。
「来る?」って言われたとき、断れなかった。断りたくなかった、が正確かもしれない。でも今になって、あの瞬間の自分の気持ちを検証しようとしても、うまくいかない。行きたかったのか、流れに乗っただけなのか、それとも好きだから行ったのか。全部が少しずつ混じっていて、どれが本当かわからない。
彼が寝返りを打った。私は息を止めた。
起きなかった。また規則的な呼吸に戻っていく。私はスマホを取って、時間を確認して、すぐに画面を伏せた。何かを調べようとして、やめた。彼のSNSを見ようとして、やめた。Tinderのプロフィールをもう一度確認しようとして、やめた。何をしたいのか、自分でもわかっていなかった。
体の関係になったら、好きかどうかわかると思っていた。なんとなく。ドラマみたいに、泣くか、すっきりするか、どちらかになると思っていた。でも実際は、喉の奥に何かが詰まったまま、答えが出ない状態が続いていた。好きじゃないかもしれない、とも思えない。好きかもしれない、とも言い切れない。
「……ね」
声が出た。自分でも気づかなかった。彼は起きなかった。
私は声に出してみたかったのかもしれない。彼の名前を。でも出なかった。「ね」だけが出て、そこで止まった。
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気づいたら1駅乗り過ごしていて、彼の肩が温かかった
4回目のデートで飲みすぎた。帰りの中央線で気づいたら彼の肩に乗っかって眠っていた。起こしてくれなかった。1駅過ぎた荻窪で目が覚めた。
昨夜、体が触れていたとき、私は何度か彼の顔を見た。目を閉じていた。私も目を閉じた。気持ちよかった、それは本当だ。体の話として、正直に言えばそうだった。でもそれは、好きだから気持ちよかったのか、それとも体として気持ちよかっただけなのか、その区別が今朝になってもつかない。
思い返すほど、わからなくなる。
二回目のデートの帰り道、駅の改札の前で彼が「また来週」って言ったとき、胸のあたりが少し上がった感じがした。あれは何だったのか。好きだったのか、単純に嬉しかっただけなのか。好きと嬉しいって、同じじゃないのか。同じじゃないとしたら何が違うのか。朝の5時半に、私はそういうことを考えていた。
窓の外がほんの少し白くなってきた。
起き上がって、脱いであった服を着た。音を立てないようにしながら、でも少しだけ音が立った。彼は起きなかった。バッグを肩にかけて、玄関に向かった。鍵の場所がわからなくて、一瞬止まった。ドアの横にフックがあって、そこにあった。
「帰るの?」
振り向いたら、彼が起きていた。声が低くて、まだ半分眠そうだった。私は「うん」とだけ言った。言えたのはそれだけだった。
「連絡して」
「うん」
また「うん」だった。他の言葉が出てこなかった。彼はもう目を閉じていた。私はドアを開けて、廊下に出た。
エレベーターを待つ三十秒が、なぜか長かった。泣くかと思ったけど、泣かなかった。胸が痛いかと思ったけど、痛くなかった。何もないわけでもなかった。ただ、何かが宙に浮いたまま、解決しない感じがあった。
渋谷駅まで歩いた。朝の6時前の道玄坂は、夜の残骸みたいな人たちと、早出の人たちが混じっていた。コンビニでホットの緑茶を買って、少し飲んだ。体が温まった。それだけで少し、地面に足がついた気がした。
山手線に乗った。座れた。窓に映る自分の顔を見た。
今ならわかる、とは言えない。あの朝から時間が経っても、整理できたとは言い切れない。ただ、わかったことが一つだけあるとしたら、体の関係が答えを教えてくれるわけじゃない、ということだ。むしろ問いが増えた。好きとはどういう状態なのか、体が先に知ってしまったとき心はどこにいるのか、「連絡して」という言葉を私はどう受け取りたかったのか。
彼には、その後LINEを送った。「帰れた」って。既読がついて、「よかった」って返ってきた。
また会いたいとも思う。会わなくていいとも思えない。でも「好き」かどうかは、まだわからない。それが今の、正直なところだった。
わからないまま次に進むことを、弱さだと思っていた時期があった。でも多分、それが一番、誠実な態度だったりする。
感情は、体の後からゆっくりついてくる。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。