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映画館の暗闇で膝が2時間触れ続けた、どちらも動かさなかった

withで知り合ったタクマと2回目のデート。映画が始まって20分後、膝が触れていることに気づいた。動かせなかった。彼も動かさなかった。2時間、ずっと。

23歳・女性の体験
·橘みあ·4分で読める

11月の夜、渋谷のTOHOシネマズ。


木曜の夜20時の回は、思ったより人が多かった。スクリーン7、通路から数えて5列目の中央寄り。タクマが先に席に着いて、私があとから滑り込んだ。ポップコーンは買わなかった。なんとなく、手がふさがるのが嫌だった。自分でもよくわからない理由で。


映画が始まって20分後に気づいた。


膝が、触れている。


彼のジーンズと、私のデニムが。隣の席との間隔が少し狭くて、自然にそうなっていたんだと思う。最初は本当に気づいていなかった。スクリーンの光が揺れるたびに色が変わる暗闇の中で、ぼんやりと映画を追いかけていた。なのに気づいた瞬間から、世界の縮尺が変わった。


スクリーンが遠ざかった。

膝が、近くなった。


デニム越し。それでも温かい。いや、温かいというより、確かに「そこにある」という感じ。体温というより、存在感。タクマの膝の、重力みたいなもの。映画の音が耳に入ってくるのに、何も聞こえない。不思議な感覚だった。


動かすべきか、と思った。でも動かしたら「気づいてましたよ」って宣言するみたいで。気まずい。むしろそのままの方が、知らないふりができる。そう判断して、足に全神経を集中させたまま、目だけスクリーンに向け続けた。俳優の顔もセリフも入ってこない。ただ光と音だけが流れていく。


タクマも、動かさなかった。


withで最初にメッセージをもらったのは9月だった。プロフィール写真は笑顔じゃなかった。でもそれが逆に誠実に見えた。最初のデートは代官山のカフェ。ILY'sの奥の席で、2時間話した。彼は質問が上手だった。「好きな映画ある?」じゃなくて、「最後に映画館で泣いたのいつ?」って聞いてきた。だから2回目のデートが映画館になったのは自然な流れで、でも今思うと、あの質問自体が伏線だったかもしれない。


2回目のデートで、まだ手も繋いでいない。


それでも今、膝が触れている。


スクリーンの中で主人公が泣き始めたシーンで、ふと横を見た。タクマが正面を向いていた。プロフィール。少し高い鼻。まつ毛が長いのは知ってたけど、暗闇の中で見るとさらに長く見えた。彼の顎が、わずかに動いた。映画の何かに反応したのか、それとも私の視線に気づいたのか。わからない。


そのとき、膝が。


わずかに、寄った気がした。


気がしただけかもしれない。でも寄ったと思う。今でもそう思っている。センチメートル単位じゃなくて、ミリ単位の、ほとんど誤差みたいな距離。なのに胸の中で何かがひっくり返るような感覚があった。お腹の下の方が、きゅっとなった。


これは何なんだろう、と思った。


好きなのか。それとも、まだわからないのか。2回会っただけで、まだ知らないことの方が多くて、でも膝が触れているこの感覚だけは本物で。好きと「まだわからない」が同時に存在していた。矛盾しているのに、どちらも嘘じゃなかった。


2時間、そのまま見た。


エンドロールが流れ始めても、どちらも動かなかった。スピッツの曲が流れていた。「美しい鰭」だったと思う。暗闇の中で音楽だけが続いて、膝はまだ触れていた。照明が戻り始めて、周りの人が動き出して、やっと私たちも体を起こした。


「面白かった?」とタクマが言った。


「うん」と私が言った。


顔が見られない気がした。立ち上がってスクリーンの方を向いたのは、赤くなっているのがバレたくなかったから。ほっぺたが、じんじんしていた。膝は触れていないのに、まだ熱が残っている気がして。


「お腹空いた?」


「少し」


「どっか行こう」


短い言葉だけで成立する会話。それが心地よかった。説明しなくていい。埋めなくていい。沈黙も空白も、全部そのままでいられる人だった。


映画館を出て、渋谷の夜の風が当たった。スクランブル交差点の方から人の声がして、ネオンがアスファルトに反射していた。11月の空気はもう冬の手前で、息が少し白かった。


出口の人混みの中で、タクマが言った。


「手、繋いでいい?」


間があった。一瞬だけ、止まった。


「……うん」


手が、重なった。あったかかった。膝の感触より、少しだけリアルで、少しだけ怖かった。映画館の中では偶然にできたことが、今は意志でできている。それがどういうことか、ちゃんとわかっていた。だから怖かった。


今ならわかる。


2時間の沈黙は、宣言だった。動かさなかったことが、どちらにとっても答えだった。言葉より先に、体が決めていた。そういう夜だった。


そして「手、繋いでいい?」のあの一言には、たぶん膝が触れていた2時間分の重さがあった。偶然を必然にするために、どれだけの勇気がいるか。彼はそれを知っていて、それでも聞いた。


2時間の沈黙より、一言の「いい?」の方が、何十倍も勇気がいる。そういう人だった。


好きになるのに、理由なんていらなかった。ただあの夜、どちらも動かさなかった。それだけで、十分だった。


勇気は、黙っていることより、声にすることの方にある。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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