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恋愛体験談エッセイBumble

彼の家でカレーを焦がして泣いた夜が、一番の思い出になった

Bumbleで出会ったコウタの家で、初めて料理を作った夜。鍋の底が真っ黒になって、キッチンに煙が充満して、私は泣き崩れた。でもあのとき彼が見せた顔を、私はたぶん一生忘れない。失敗が思い出になる夜。

20代後半・女性の体験
·橘みあ·8分で読める

付き合って2ヶ月。初めて彼の家に行った。


Bumbleで出会ったコウタは、目黒の1LDKに一人暮らし。「料理好き」とプロフに書いてあったくせに、冷蔵庫の中身は卵と納豆とビールだけだった。1回目のデートでそう言ったら「週末だけ本気出すタイプ」と笑っていた。


彼の家に行く日。私は朝から気合を入れていた。スーパーで材料を買い込んだ。玉ねぎ3個、にんじん2本、じゃがいも4個、豚肉300g、市販のカレールー。S&Bのゴールデンカレー、中辛。


「初めて彼の家で料理を作る」。この響きに、自分で自分を追い込んでいた。雑誌やインスタで見た、彼の家で手料理を作る彼女。エプロンして、鼻歌歌って、「できたよー」って呼ぶやつ。あれをやりたかった。


一つ問題がある。


私は料理がド下手だ。


一人暮らし4年目。自炊歴は浅い。キッチンに立つのは週に1回あるかないか。得意料理は「レンジでチンする冷凍うどん」。それを得意料理と呼んでいいのかは議論の余地がある。


でもカレーなら。カレーならいけるだろう。箱の裏に作り方が書いてある。失敗しようがない。そう思っていた。


目黒のキッチンで


15時。目黒の彼の部屋。インターフォンを押した。


「いらっしゃい」


コウタがドアを開けた。グレーのスウェットに白T。無印良品のルームシューズ。家着のくせに、なんか良い匂いがする。柔軟剤か、それともこの人の匂いなのか、区別がつかない。


部屋は思ったより片付いていた。本棚にはデザインの専門書。壁にはIKEAのポスター。窓際に観葉植物。ちゃんと生きてる。水やってるんだ。


「キッチン、使っていい?」


「もちろん。俺は何すればいい?」


「邪魔しないでいてくれればいい」


コウタが笑って、ソファでNetflixを流し始めた。テレビからMrs. GREEN APPLEの曲が流れていた。何かのライブ映像。


エプロンを持ってきた。自分の家から。花柄の。ちょっとダサい。でも他に持ってなかった。


玉ねぎを切り始めた。目が染みる。涙が出る。でもこれは玉ねぎのせいであって、泣いてるわけじゃない。まだ。


にんじんを切った。乱切り。ちょっと大きさがバラバラ。まあいいか。じゃがいもの皮を剥いた。ピーラーで。親指の皮も少し剥いた。血が出た。


「大丈夫?」


コウタがキッチンに来た。


「大丈夫大丈夫。出ないで。サプライズなんだから」


「血出てるけど」


「これは演出」


「どういう演出」


絆創膏を貼ってもらった。コウタの指が私の親指に触れた。大きくて温かい手。絆創膏を巻く指が丁寧で、息を止めた。近い。顔が近い。睫毛が長い。


「はい、もう行って。あと30分で完成するから」


追い出した。


肉を炒めた。野菜を入れた。水を入れた。ここまでは順調。箱の裏の手順通り。よし。いける。


問題は、火加減だった。


彼の家のコンロは火力が強かった。うちのと全然違う。強火のつもりで中火にしたはずが、思った以上にボコボコ沸騰している。


ルーを入れた。かき混ぜた。いい匂いがしてきた。よし。


ここで致命的なミスを犯した。


スマホが鳴った。友達のサキからLINE。「彼の家なう? どう?」。返信した。「今カレー作ってる。順調」。サキから「えらい!写真送って」。カレーの写真を撮った。いい感じじゃん。映えてるじゃん。フィルターかけて送った。サキから「美味しそう!」。


LINEに夢中になっていた。何分間だろう。5分か、10分か。


焦げたカレーの煙


焦げ臭い。


振り返った。鍋から煙が上がっていた。


「やばっ——」


慌てて蓋を開けた。鍋底が真っ黒だった。カレーの下半分が完全に焦げている。焦げの匂いが部屋中に広がっていく。煙が目に染みる。


「うそ。うそうそうそ」


混ぜた。でもダメだった。混ぜれば混ぜるほど、焦げが全体に行き渡っていく。カレーが焦げ茶色から黒に変わっていく。


コウタがキッチンに飛んできた。


「どした? ……あ」


彼は鍋の中を見た。真っ黒なカレー。


「これは……」


涙が出た。


玉ねぎのせいじゃない。今度は本物の涙。悔しくて、恥ずかしくて、情けなくて、全部が一気に来た。


「ごめん。ごめんなさい。私、料理ほんとにダメで。いいとこ見せようと思ったのに。最悪。ほんと最悪」


涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっていた。花柄のエプロンの裾で顔を拭いた。みっともない。彼の家で、初めての手料理で、カレーを焦がして泣いている。こんなの最悪だ。


コウタが何も言わずに鍋を持った。焦げた部分を避けて、上の方のまだ無事なカレーをお玉ですくって、別の鍋に移し始めた。黙々と。手際よく。


「水、足す。ルーも追加する。まだいける」


「いけるわけないよ、あんなに焦げて——」


「いける。任せて」


彼がコンロの前に立った。水を足して、ルーを割り入れて、弱火でゆっくりかき混ぜた。真剣な横顔。デザイナーの目で、鍋の中身を観察している。


私はキッチンの隅で立ち尽くしていた。まだ泣いている。エプロンの裾がびしょびしょだ。


20分後。


「できた」


テーブルに2つの皿。ごはんとカレー。見た目は……まあ、普通のカレー。焦げの痕跡はほとんどない。


一口食べた。


ちょっとだけ苦い。焦げのニュアンスが隠しきれていない。でも食べられる。ちゃんとカレーの味がする。


「……おいしい」


「うん。おいしいよ」


コウタが2口目を食べて、「これ、スモーキーでいいね。燻製カレーということにしよう」と言った。


笑った。泣きながら笑った。鼻水まだ出てるのに。


「次はシチューにしよう。シチューなら焦げても白いからバレにくい」


「その理論おかしくない?」


食べ終わって、皿を洗った。2人で並んで。コウタが洗って、私が拭いた。


キッチンの蛍光灯の下。彼の横顔が近い。腕が触れる。泡がついた手で、私のほっぺたをつんと触った。


「なに」


「泡」


「嘘。今ついたでしょ、わざと」


「バレた?」


笑った。彼の目が近い。水回りの湿気で、彼の前髪が少しだけ額にはりついている。石鹸の匂い。温かい湯気。蛍光灯がジジジと小さく鳴っている。


あいみょんとソファと、あの匂い


皿を拭き終わって、ソファに座った。Netflixであいみょんのライブ映像を流していた。「マリーゴールド」のイントロが聴こえた。


コウタの肩に頭をもたれかけた。彼のスウェットの生地が頬に触れる。柔らかい。温かい。柔軟剤と、少しだけカレーの匂いが混ざった、この夜だけの匂い。


「ねえ」


「ん?」


「また作りに来ていい? 次は焦がさないから」


「焦がしてもいいよ。一緒にリカバリーする」


その言葉で、また泣きそうになった。今度は嬉しくて。目の奥が熱くなって、唇を噛んだ。


あの夜から4ヶ月。私はまだ料理が下手だ。パスタは茹ですぎるし、味噌汁は塩辛い。でも毎週末、彼の家のキッチンに立っている。


一度だけ聞いた。「なんで焦げたカレーであんなに怒らなかったの」。


コウタは「怒るわけないじゃん。俺のために作ってくれたんでしょ。焦げたとかどうでもいい」と言った。


焦げたカレーの匂いは、多分一生忘れない。あれが、この人を本気で好きになった瞬間の匂いだから。

よくある質問

どのアプリで知り合ったのですか?
Bumbleで出会いました。目黒の1LDKに一人暮らしのコウタという相手で、プロフィールに「料理好き」と書きながら冷蔵庫には卵と納豆とビールしかない人でした。
カレーを焦がしてしまったのはなぜですか?
付き合って2ヶ月、初めて彼の家で料理を作るというプレッシャーに自分で自分を追い込んでいたようです。気合を入れすぎた結果、鍋の底が真っ黒になり、キッチンに煙が充満しました。
あの夜が一番の思い出になった理由は何ですか?
カレーを焦がして泣いてしまったそのときの彼の顔を一生忘れないと書かれています。失敗した瞬間の彼の表情や反応が、何より記憶に刻まれているようです。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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