バツイチ39歳、もう一度アプリを開いた日のこと
離婚歴の欄で「あり」を選ぶとき、指が震えた。39歳、バツイチ。もう誰にも選ばれないと思っていた私が、Omiaiでもう一度始めた話。1週間で届いた8件のいいねが、全部を変えた。
離婚歴の欄で「あり」を選ぶとき、指が震えた。
離婚して2年間、マッチングアプリは使えなかった。使えないというより、開く気になれなかった。「バツイチ」と書く欄を見ることが怖かった。自分の失敗を、数字として証明する感覚。スマホの画面にその文字が映るたびに、胸の奥がぎゅっと締まった。
39歳の春。桜がもう散り始めていた4月の終わり、友人の美紀と代官山のカフェで会った。ラテを飲みながら、美紀が言った。「もう2年経ったんだよ。そろそろ動いてもいいんじゃない?」
頭ではわかっていた。でも体が動かなかった。「バツイチの39歳って、市場価値ゼロじゃない?」と言ったら、美紀は少し黙ってから「市場価値って言い方やめなよ。人間は商品じゃないんだから」と返してきた。
その夜、ベッドの中でOmiaiをダウンロードした。
「あり」を選んだ夜
登録を進めていくと、「離婚歴」の欄が出てきた。
「なし」「あり」。選択肢は2つだけ。
指が画面の上で止まった。心臓がドクドクと鳴っていた。「なし」を選べば、もう少し楽にスタートできる。でも嘘をつく自分を想像したとき、喉の奥に苦い味がした。隠して出会っても、どこかで言わないといけない。3回目のデートで?付き合ってから?どのタイミングで言っても、「最初から言ってくれればよかったのに」となる。
「あり」をタップした。
画面が次に進んだ。それだけのことだった。でも、手のひらが汗でじっとりしていた。
プロフィールの自由記述欄に、こう書いた。「35歳で結婚して、37歳で離婚しました。理由は価値観の違い。後悔はないけど、反省はたくさんあります。もう一度、誰かと一緒に歩きたいと思って登録しました」
書き終わって読み返したとき、目頭が少し熱くなった。「反省はたくさんあります」の一文に、2年分の感情が詰まっていた。
1週間で届いた8件のいいね
「離婚歴あり」を表示した状態で、1週間で8件のいいねが来た。
正直、驚いた。1件も来ないと思っていた。バツイチの39歳に、誰がいいねを送るんだと。
8件のうち、メッセージ付きだったのは3件。そのうちの1件に、こう書いてあった。
「私もバツイチです。同じ状況の方がいたら話しやすいと思って、いいねしました」
短い文章だった。でもその「同じ状況の方がいたら」という一言に、鼻の奥がつんとした。「同じ」と言ってくれる人がいる。それだけで、2年間閉じていた扉が少し開いた気がした。
銀座で会った日
メッセージを2週間ほどやりとりして、会うことになった。相手は43歳の男性、コウタさん。IT企業の管理職。5年前に離婚していた。
銀座の並木通り沿いにある、小さなフレンチビストロで会った。5月の土曜日。夕方の光が窓から差し込んでいて、テーブルの白いクロスがオレンジ色に染まっていた。
「はじめまして」と言ったとき、声が少し震えた。2年ぶりの「出会い」だった。
コウタさんは、最初の5分で言ってくれた。「離婚の話、したくなければしなくていいですよ。話したくなったら、いつでも聞きます」
その一言で、肩の力が抜けた。ずっと構えていた。「聞かれたらどう答えよう」「引かれたらどうしよう」。でも「しなくていいですよ」と言ってもらえた瞬間、胸の緊張がふっとほどけた。
結局、少し話した。「価値観の違いで」とだけ言った。コウタさんは「うちも似たようなものです」と笑った。その笑い方に、無理がなかった。
白ワインを飲みながら、仕事の話、最近読んだ本の話、休日の過ごし方の話。離婚の話以外に、たくさん話すことがあった。当たり前のことだけど、2年間「バツイチの自分」に捕われていた私には、その当たり前がありがたかった。
帰り際、銀座の夜の通りを並んで歩きながら、コウタさんが言った。「また会いましょう。来週、空いてますか?」
「空いてます」と即答した。声が、自分でも驚くくらい明るかった。
3回目のデートで
2回目は丸の内のカフェ。3回目は表参道を散歩した。
3回目のデートの帰り道、コウタさんが「離婚した後、自分を責めた時期ありましたか」と聞いてきた。
「ありました」と答えた。「2年くらい」
「俺は3年」とコウタさんが言った。「でも最近やっと、あれは失敗じゃなくて経験だったと思えるようになった」
表参道のケヤキ並木の下を歩きながら、涙が出そうになった。我慢した。でも鼻をすすったのは、たぶんバレていた。
まだ途中の話
今、コウタさんと月に2〜3回会っている。付き合っている、とはまだ言えない段階。でも、先週電話で2時間話した。「今度、鎌倉行きませんか」と誘われて、「行きたい」と答えた。
39歳でもう一度アプリを開いた自分に対して、「よかった」と思っている。
「バツイチ」という事実は変わらない。離婚した過去は消えない。でも、それを誰かへの説明から始めなくていい場所がある。「あり」を選んだ瞬間から、同じ経験をした人が集まってくる。Omiaiで知ったのは、そういうことだった。
美紀に「アプリ始めた」と報告したら、「え、マジで。どう?」と前のめりに聞いてきた。「まだわからない」と答えた。「でも、悪くない」。
離婚歴は消えないけど、新しい物語は始められる。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。