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「170cm以上」が絶対条件だった私が、165cmの彼を好きになった話

「身長165cm、正直に書いてます」というプロフィールに右スワイプした理由が、最初は好奇心だった。でも会ってみたら、身長のことを1秒も考えなかった。

27歳・女性の体験
·橘みあ·5分で読める

正直に言う。私には条件があった。


Tinderのプロフィール設定で、希望の身長を「170cm以上」にしていた。明文化はしていなかったけど、心の中では絶対条件だった。27歳、身長159cm。ヒールを履けば163cmくらい。「高い人の方が安心感がある」という、根拠のない理由で。


ある夜、プロフィールをスクロールしていたら、止まった。


「身長165cm、正直に書いてます」


写真は吉祥寺の本屋の前で撮ったやつ。普通の黒縁メガネをかけた人が、本の棚の前で少し笑っている。特別イケメンではない。でも笑い方が自然で、メガネが斜めにかかっていた。直してないのか、気づいていないのか。


「身長165cm、正直に書いてます」という一文が気になった。なぜ「正直に」なのか。他の人が正直に書いていないということを、この人は知っているから書いたんだろうか。


右にスワイプした。好奇心だった。それだけだった、最初は。


マッチした。すぐにメッセージが来た。


「ありがとうございます。身長の一文、引かなかったですか?笑」


「引かなかったです。なぜ『正直に』って書いたんですか?」


「盛ってる人が多いって聞いたので。俺は165です。それより高くなりません」


「それより高くなりませんって笑」


「事実なんで笑」


変な人だと思った。でも嫌じゃなかった。


やりとりしていたら、本好きだとわかった。本屋の前で写真を撮っていた理由は、吉祥寺の「百年」という古書店が好きだからだと言っていた。私も本が好きで、百年に行ったことがある話をしたら、「好きな本棚の段はどこですか」という変な質問が来た。「3段目と5段目の間あたりが好きです」と答えたら、「わかります、あのゾーンは時間が溶ける」と返ってきた。


会うことにした。表参道のカフェ。


来た。黒縁メガネ。やっぱり少し斜め。今日も直していない。白シャツにきれいめのデニム。身長は、160センチ台の私より少し高いくらい。ヒールなしで来たから、だいたい同じ目線だった。


「どうも、165cmの者です」


彼が言った。開口一番。


「どうも、159cmの者です」


「あ、差がない。よかった」


「よかったって何がですか」


「見上げる角度が少ないから、首が疲れないかなって」


意味わからん、と笑った。カフェのソファに座って、最初からなぜか普通に話せた。初対面の気まずさがなかった。


コーヒーを飲みながら、本の話をした。最近読んだもの。好きな作家。途中で挫折した本の話になって、私が「カラマーゾフの兄弟を3回挫折してる」と言ったら、「俺も。第1巻の途中で毎回寝落ちしてる」と返ってきた。「いつかは読めると思ってる」「俺も思ってる、毎回」。この会話が妙にツボで、思い切り笑った。


3時間が経っていた。気づかなかった。


「楽しかった」


外に出た時、私が言った。日が暮れかけていた。表参道のケヤキが夕方の光を受けていた。


「また来ます、正直に書いた意味がありました」


彼が言った。


「正直に書いてなかったら、スワイプしませんでしたよ」


「え、本当に?」


「……本当に。170cmって書いてあったら、たぶん流してた」


彼が笑った。少しだけ目が細くなった。


「じゃあ正直に書いてよかった。詐欺じゃなくて良かった」


その後、何度か会った。身長のことを考えたのは、あの最初の会話だけだった。デートしている間、一秒も気にならなかった。


170cmが好きだったのか、それとも「高い人」という概念が好きだっただけなのか。今となってはよくわからない。わかっているのは、165cmのメガネ斜めの人と話すのが、この数ヶ月で一番楽しかったということだ。


条件って、自分が何を好きかをわかっていない時の、仮の答えだったのかもしれない。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

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