「170cm以上」が絶対条件だった私が、165cmの彼を好きになった話
「身長165cm、正直に書いてます」というプロフィールに右スワイプした理由が、最初は好奇心だった。でも会ってみたら、身長のことを1秒も考えなかった。
正直に言う。私には条件があった。
Tinderのプロフィール設定で、希望の身長を「170cm以上」にしていた。明文化はしていなかったけど、心の中では絶対条件だった。27歳、身長159cm。ヒールを履けば163cmくらい。「高い人の方が安心感がある」という、根拠のない理由で。
ある夜、プロフィールをスクロールしていたら、止まった。
「身長165cm、正直に書いてます」
写真は吉祥寺の本屋の前で撮ったやつ。普通の黒縁メガネをかけた人が、本の棚の前で少し笑っている。特別イケメンではない。でも笑い方が自然で、メガネが斜めにかかっていた。直してないのか、気づいていないのか。
「身長165cm、正直に書いてます」という一文が気になった。なぜ「正直に」なのか。他の人が正直に書いていないということを、この人は知っているから書いたんだろうか。
右にスワイプした。好奇心だった。それだけだった、最初は。
マッチした。すぐにメッセージが来た。
「ありがとうございます。身長の一文、引かなかったですか?笑」
「引かなかったです。なぜ『正直に』って書いたんですか?」
「盛ってる人が多いって聞いたので。俺は165です。それより高くなりません」
「それより高くなりませんって笑」
「事実なんで笑」
変な人だと思った。でも嫌じゃなかった。
やりとりしていたら、本好きだとわかった。本屋の前で写真を撮っていた理由は、吉祥寺の「百年」という古書店が好きだからだと言っていた。私も本が好きで、百年に行ったことがある話をしたら、「好きな本棚の段はどこですか」という変な質問が来た。「3段目と5段目の間あたりが好きです」と答えたら、「わかります、あのゾーンは時間が溶ける」と返ってきた。
あわせて読みたい
気づいたら1駅乗り過ごしていて、彼の肩が温かかった
4回目のデートで飲みすぎた。帰りの中央線で気づいたら彼の肩に乗っかって眠っていた。起こしてくれなかった。1駅過ぎた荻窪で目が覚めた。
会うことにした。表参道のカフェ。
来た。黒縁メガネ。やっぱり少し斜め。今日も直していない。白シャツにきれいめのデニム。身長は、160センチ台の私より少し高いくらい。ヒールなしで来たから、だいたい同じ目線だった。
「どうも、165cmの者です」
彼が言った。開口一番。
「どうも、159cmの者です」
「あ、差がない。よかった」
「よかったって何がですか」
「見上げる角度が少ないから、首が疲れないかなって」
意味わからん、と笑った。カフェのソファに座って、最初からなぜか普通に話せた。初対面の気まずさがなかった。
コーヒーを飲みながら、本の話をした。最近読んだもの。好きな作家。途中で挫折した本の話になって、私が「カラマーゾフの兄弟を3回挫折してる」と言ったら、「俺も。第1巻の途中で毎回寝落ちしてる」と返ってきた。「いつかは読めると思ってる」「俺も思ってる、毎回」。この会話が妙にツボで、思い切り笑った。
3時間が経っていた。気づかなかった。
「楽しかった」
外に出た時、私が言った。日が暮れかけていた。表参道のケヤキが夕方の光を受けていた。
「また来ます、正直に書いた意味がありました」
彼が言った。
「正直に書いてなかったら、スワイプしませんでしたよ」
「え、本当に?」
「……本当に。170cmって書いてあったら、たぶん流してた」
彼が笑った。少しだけ目が細くなった。
「じゃあ正直に書いてよかった。詐欺じゃなくて良かった」
その後、何度か会った。身長のことを考えたのは、あの最初の会話だけだった。デートしている間、一秒も気にならなかった。
170cmが好きだったのか、それとも「高い人」という概念が好きだっただけなのか。今となってはよくわからない。わかっているのは、165cmのメガネ斜めの人と話すのが、この数ヶ月で一番楽しかったということだ。
条件って、自分が何を好きかをわかっていない時の、仮の答えだったのかもしれない。
この記事を書いた人
27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。