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恋愛体験談エッセイ

大阪で会った夜、後悔しなかった3ヶ月後の話

梅田のバーで隣に座った人と、サカナクションが好きという話をした夜。それだけだった、はずなのに。「東京行っていいですか」の一文を見た瞬間、距離は言い訳にならないとわかった。大阪で始まって東京に動いた、遠距離恋愛エピソード。

24歳・女性の体験
·橘みあ·6分で読める

正直に言う。大阪で会った人が3ヶ月後に東京に来たのに、本物だった。


友人の紹介で集まった六人か七人か、正直よく覚えていない。カウンターの端に座って、グラスの水滴を指先で拭いていたら、隣に来た。特別な登場じゃない。「ここ、いいですか」それだけだった。


何を話したんだろう。仕事のこと、大阪と東京の違い、あとは確か、どちらもサカナクションが好きだという話。会話の内容より、ちゃんと私の目を見て笑う人だな、と思ったことの方が残っている。連絡先を交換したのは帰り際で、外に出たら秋の終わりの空気が冷たくて、「気をつけて帰ってください」と言い合って、それで終わった夜。


新幹線に乗り込んで、シートに深く沈んだ頃にLINEが来た。


「今日、楽しかったです」


たった十二文字。読んで、画面を伏せて、また開いた。品川に着くまでに五回は読んだと思う。六回かもしれない。数えていたわけじゃないけど、そのくらい読んだ。


東京と大阪。新幹線で二時間半。遠いとも言えるし、そうでもないとも言えるその距離を、私はちゃんと言い訳に使っていた。出張でもなければ会えない。向こうも来るとは言わない。だからこれは、ゆっくり消えていく類の縁なんだと、最初から決めていた。


でもLINEは来た。


毎晩じゃない。週に三回か四回。「好きな食べ物は何ですか」から始まって、二ヶ月かけて「最近、ちょっと仕事しんどくて」まで届くようになった。テキストを打ちながら、この人の声、どんな声だったっけ、と思い出そうとすることがあった。思い出せるような、思い出せないような。でも読むたびに、なんか、この人のことが好きかもしれない、とじわじわ体の真ん中あたりが重くなる感じがしていた。


ある夜、メッセージが来た。


「東京行っていいですか」


画面を見た瞬間、手が震えた。大げさじゃなく、本当に少し震えた。嬉しい、というより、怖かった。会いに来るということは、私がどう思っているか、向こうもある程度わかってるということで、それはもう、知らないふりができなくなるということで。


「来てください」


返した後、今度は脈が速くなった。心臓ってこんな音したっけ、と思いながら、スマホを枕の上に置いた。



三ヶ月後の土曜日


三ヶ月後の土曜日。十一月の終わりで、東京駅の改札前は人が多かった。スタバのカップを両手で持ちながら待っていたら、新幹線の出口から出てきた顔が見えた。


大阪で見た顔と同じで、でも違って見えた。


何が違うかは喉の奥で言葉が詰まった。光の角度か、私の目が変わったのか。ただ、「来てくれた」というそれだけで、胸の奥のあたりが、ぎゅっとなった。


「どこ行きたい?」


「どこでもいい。あなたが決めて」


中目黒にした。特別な理由はない。ただ、川沿いを歩きたかっただけ。桜はもう散っていたけど、目黒川の緑が夕方の光を受けてきれいで、十一月にこんな色があるんだと思いながら歩いた。


隣を歩く人のコートが、自分の腕に触れそうで触れなかった。


「東京って歩きやすいですね」


「大阪は違う?」


「なんか、テンポが違うんですよね。歩くリズムが」


「どっちが好き?」


少し間があった。川の水音と、遠くの車の音。


「どっちも好き。今は特に」


その「今は特に」に、何を込めたのか。聞けなかった。聞かなかった。正解だと思う。あの四文字は、聞いた瞬間に何かが変わってしまうやつだったから。わからないままでいる方が、その夜の空気に似合っていた気がする。


ログロードで夕食を食べた。何を頼んだか忘れたけど、赤ワインを一杯ずつ飲んで、話が途切れても沈黙が重くならなかった。それが、一番よかったことかもしれない。


東京駅まで送った。


新幹線の時間まで少しあって、コンコースのベンチに並んで座った。何か話さなきゃ、という気持ちと、このままでもいい、という気持ちが、私の中で一緒に存在していた。好きかどうかと、これが正しいかどうかは、別の話だとそのとき気づいた。好きな気がする。でも「違うかも」も、少しある。その矛盾を、なかったことにしなくていいとも思った。


「また来る」


改札に入る前に言ってくれた。宣言というより、独り言みたいな声で。


「待ってます」って言おうとして、「うん」って言った。



帰り道の川沿い


帰りの電車の中で、中目黒の川沿いを思い返していた。緑の色、触れなかったコートの袖、「今は特に」の四文字。


距離は何も変わっていない。東京と大阪のあいだに、新幹線が走っているのは相変わらずで、日常はそれぞれの場所に続いていく。


でも、来てくれた人が一人いる。


それだけで、言い訳にしていた距離が、急に別のものに見えた。遠さは障害じゃなくて、この気持ちが本物かどうかを静かに測り続ける装置なんだと、あの日初めて思った。


本物じゃないのかと思ったのに、新幹線で来た。

よくある質問

「東京行っていいですか」というLINEが来たのはいつですか?
大阪で会った夜から3ヶ月後のことだとあります。その一文を見た瞬間、手が震えたと書かれています。
距離が言い訳だと思っていたとはどういう意味ですか?
東京と大阪の距離があることを気持ちが続かない理由にしていたということのようです。実際に来てくれるまでは距離が言い訳になっていたと気づいた、という意味で書かれています。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

このテーマを読む:遠距離恋愛体験談

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