恋のアーカイブ
恋愛体験談

手をつなぐのに45分かかった。それでも、あの冬の代々木公園が忘れられない

1月の代々木公園で、私は3回タイミングを逃した。4回目、指を重ねたとき彼女が「え」と言った。離さなかった。テーブルの上のまま、意味のない言葉を言い続けた。

·橘みあ·5分で読める

誘ったのは、私だった。


「冬の公園って好きで」と送ったとき、返信が来るまでの3分間、スマホを裏向きに置いていた。表にできなかった。自分でも気づいていた。これはただの公園の話じゃないって。


1月の土曜日。気温6度。原宿駅の改札前で待っていたら、白いコートの彼女が現れた。SHIROのリップクリームが首元のポケットから少し顔を出していて、なぜかそこに目が行った。細かいところに気づく癖がある。好きな人を前にすると特に。目を合わせるのが怖くて、周辺ばかり見てしまう。


「寒いですね」って言った。

「でも来てよかった」って彼女が言った。


公園に入った。


1月の代々木公園は、静かだった。人の声より風の音の方が大きくて、落ち葉が踏まれるたびに乾いた音がした。パリ、パリ。その音だけが妙にはっきりしていた。空は白みがかった青で、木の枝が細くてまっすぐで、冬の公園にしかない種類の美しさがそこにあった。


歩きながら、考えていた。手のこと。


コートのポケットに両手を入れたまま歩いていた。彼女も同じだった。その距離が、30センチくらい。遠くはない。でも「もう少し」には届かない。


1回目のタイミングは、ケヤキ並木の前だった。


「あ、あの木きれいですね」と言った瞬間、彼女が立ち止まってスマホを取り出した。カメラを向けて、少し角度を変えて、また撮って。その横顔がきれいで、私は声を出すことも忘れて見ていた。手を伸ばすどころじゃなかった。ただ立っていた。棒みたいに。


写真を撮り終えた彼女が「送りますね」と言って、2秒後に私のLINEに届いた。木の写真。でもその隅に、私の影が少し映り込んでいた。気づいてたのかな、彼女は。気づいてて、撮ったのかな。


わからない。


2回目は、ベンチだった。


池のそばのベンチに座って、たぶん仕事の話をしていた。「そうなんですか」と彼女が言いながら、ベンチの上に手を置いた。私の手との距離、10センチもなかった。ポケットから手を出せばよかった。それだけでよかった。でも「そうなんですか」の相槌のタイミングに体が固まって、そのまま話が続いて、気づいたら彼女は立ち上がっていた。


「もう少し歩きましょうか」


うん、って言った。声が少し掠れた。


3回目が一番惜しかった。


公園の出口に近い、狭い道。人が一人ずつしか通れないくらいの幅で、彼女が先を歩いていた。その後ろを歩きながら、腕を伸ばせば届く距離にいた。届いた。届いていた。なのに、腕が動かなかった。「もし振り払われたら」じゃなくて、もっと手前の問題だった。この瞬間に名前をつけることが、まだ怖かった。手をつなぐってそういうことで、そうしたら私たちは何かになってしまって、その「何か」が怖かったのかもしれない。


好きなのに。好きなのに、「違うかも」が同時にあった。正確には「違ったらどうしよう」が。


原宿に戻って、カフェに入った。


表参道寄りの、小さい店。コーヒーを頼んで、向かいに座った。窓の外は暗くなりかけていた。店内のBGMはThe xx だった。静かな、でも確かに流れている音楽。


テーブルの上に、彼女が手を置いた。


私も、置いた。


距離は5センチくらい。公園でずっと探していたのと同じ景色が、今度はテーブルの上にあった。


4回目。


指を、重ねた。


「え」


彼女の声。小さかった。驚いたのか、困ったのか、判別できなかった。でも離さなかった。テーブルの上のまま、ただ重ねたまま、私は何か言わなきゃいけない気がして、


「寒かったですね」


って言った。


今でも思う。なんであの言葉。公園の話はとっくに終わっているのに。でもそのときの私にはそれしか出てこなかった。温度の話しかできなかった。本当に言いたかったことは、もっと別のところにあって、うまく取り出せなくて。


彼女が少し間を置いてから、言った。


「うん、でも楽しかった」


手は、まだ重なっていた。


コーヒーが冷めた。飲まなかった。話した。何を話したか覚えていない。手が温かかったことだけ覚えている。


45分かかった。公園に入ってから、指が触れるまで。3回逃して、1回だけ動いた。その1回がなければ、私たちは「楽しい公園散歩の人たち」で終わっていた。


たった5センチ先のことが、45分もかかる。


恋愛ってそういうものだと思う。距離じゃなくて、名前をつける怖さとの戦いだから。手をつなぐって、「好きです」を体で言うことだから。言葉より先に体が正直になるのが、こんなにも怖い。


あのSHIROのリップクリームの銘柄、今でも知らない。今度、聞いてみようと思っている。


怖いけど、怖くなくなってきた。


5センチに45分かけた私が言うから、たぶん本当のことだ。

この記事を書いた人

橘みあマッチングアプリ体験談ライター

27歳・東京。Pairs・with・Tinder・Omiai・タップルを延べ3年間使用。マッチングアプリで3人と出会い、2回失恋した経験をもとに執筆。失恋した夜に誰かのブログで楽になった経験から、このサイトを始めた。

このテーマを読む:初デート体験談

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